ワザリング・ハイツ -annex-

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2017年上半期レビューまとめ

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2017年上半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。プレイした時期が一年以上前のものも混ざっているため、今年鑑賞したものには、作品名の横に2017と表記しておきました(発売・放送年度ではないので注意)。追いこまれた時間のなかでもわりあい数を消化できた上半期だった気がする。

若干のネタバレを含むところもあるので足元にはご注意ください。

 

●『最終試験くじら

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昨年度末にプレイ。サーカス屈指の曲ゲーのひとつ。大局的に見れば白目を剝くほどつまらないテキストながらも、ところどころの言葉は驚くほど心に響く、かなり稀な作品だと言える。たとえ空想でも現実でも、それが自分の選んだ世界であれば、自身の真実として貫き通す強い意志をもつべきだという、ゆがみをゆがみのまま肯定する主張が物語の中核を成す。それゆえどうしても記事にして自分のために擁護したかった作品のひとつでもある。『ナルキッソス』以上の複相的な代理体験の仕掛けも見どころのひとつであった。

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●『見上げてごらん、夜空の星を』天ノ川沙夜ルート(2017)

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星と自分の関係をもう一度見つめなおすことで、星を教えてくれた友人たちと、新たに関係を結びなおす沙夜の成長物語。文化系の活動を深く描きだした良作でもある。最愛の友人である暁斗とひかりと離ればなれになってしまった沙夜は、三年もの間たったひとりで観測ノートを書き続ける。沙夜にとって天体観測は常に友人とともにあり、はじめてひとりで星と向きあうことで、彼女は自分にとっての星のあり方を深く見つめなおす機会を得る。ひとつの分野に深く入りこんで真摯に向きあう時間が、他者との関係を新しくみがきあげる糧になるという、私にとっては大切なメッセージを本作から得ることができた。

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●『SWANSONG』(2017)

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事実上の今年の一作目。一意的な価値が成立しない場において、あらゆる価値が相対化されてしまうさまを緻密に描いた、いわゆる状況小説(a novel conditional)である。絶対的な価値が存在しえない世の中において、世の慣習や常識に潜む偽善を次々とあばきだし、並行線をたどる議論を延々と煎じつめる。また柚香の抱える心の病は、現在と主体的に不断の関わりをもてないがために、他者ないし他者と関わる自分自身をいきいきと感じることができないという、関係の病に根差したものであった。すばらしい作品である一方、もう二度と読みたくないし、誰にもすすめたいとは思わない(笑)。しかし本作が稀代の傑作である事実は少しもゆるがない。

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●『猫物語

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R・D・レインが提唱したfalse-self systemのモデルそのものとも言える羽川翼は、偽の自己を構築して真の自己から切りはなし、他者のように眺めて自己存立を図った。偽の自己がいくら他者と交流しようとも真の自己には影響がなく、彼女の周囲のものは――偽の自己も含めて――すべて石化(petrification)しており、真の自己は誰ともコミュニケーションを結べていない。自己は他者と関係してはじめて成立するものであり、自ら他者と関係しようとする意思をとり戻す物語が、羽川翼の『猫物語』であったと言えよう。丁寧に追ってゆくと、なるほど、精神病理学的な主題を豊富に提供してくれる物語であった。

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●『Crescendo』

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よくできた連作短篇集といったところ。精緻な描写が味わい深く純粋な読みものとして楽しめる一作。あやめルートでは、『なついろレシピ』でも描かれた役割変化の主題を追いかけながらも、自己存立の根拠をどこに求めるのかという、男女関係につきまとう依存の問題が焦点となった。使い古されただめな女以上の像をあやめに見出せなかったのは私だけだろうか。

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●『生命のスペア』(2017)

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死をもって他者を生かすという、現代ではあまり問われなくなった、文字通りの自己犠牲の主題をとりあげた秀作。他者の気持ちを省みない、自己中心的な自己同一性をどう受けとめるかが、全篇を通じて問題化された。他者のために生きることと自己存立を図ること、その両者が並立しうることを死をもって証明するという、竜次と恵璃の逆説的な試みが読む者の胸をうつ。自己矛盾から眼をそらさずに問題を真摯に追求する姿勢はなかなかのものである。

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●『花咲くいろは

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P.A.Worksが生みだした名作のひとつ。「家庭と仕事」という日本の家庭における慣習的な主題をとりあげながらも、それを“夫”抜きで語りだすという、非常に斬新な切り口は注目に値する。変わらないために変わりつづけるという、現代の時流を鑑みるに決して看過できない問題を、三世代にわたる母娘関係を通じて複相的に描きだす。大人のための大人による物語でありながらも、複雑怪奇な社会のなかで惑う若者に向けた数々の大切な言葉が隠れた傑作である。

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●『水葬銀貨のイストリア』(2017)

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前作『紙の上の魔法使い』で提出された主体性の問題を敷衍し語りなおした物語。また前作よりもさらに文学的な主題が多く盛りこまれた興味深い一作でもある。西欧古典文学における悲劇の型を援用しつつ、感情的な物語ではなく理性的な物語として、あくまで現代の寓話をつくりあげたルクルはさすがである。本作における善悪についての諸々の問題提起は、絶対的な価値の存在を許さないものであり、英士たちは一意的な価値の崩壊に見舞われる。確かなものがなにもない世の中で、「なにをしたいか」を自身に問いつづけ、自分の意思を寄りどころとし決断を下す果断な態度が、善の選択として正当化されうる唯一の選択肢なのである。答えの出ない複雑な問題を前にして、覚悟をもってひとつの道を選ぶ主体性を問題にした、美しいほどきれいにまとめられた物語であった。個人的には、主に後夜でとりあげた“役割同一性”の主題が、切実なものとして心に響いた。役割変化の主題はノベルゲームになじみ深い主題でもあり、不連続の連続としての自己の問題も然り、精神病理学的主題を今後もルクルには書きつづけてほしいと思う。

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●『アマツツミ』(2017)

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“言葉=魂=命”にまつわる美しい怪奇譚。Purpleの旧作にして名作『明日の君と逢うために』で提示された断絶した自己の主題について、魂を言葉に込める「言霊」を軸に、新たな角度から答えを出した意欲作である。言葉遊びも然ることながら、想いをのせた言葉の広がり、姓名の重み、そういった言葉にまつわる諸々が、すべてのルートにおいて人物たちの自己同一性の問題に影響を及ぼすという、言葉についての深い洞察は見事としか言いようがない。命を懸けて言葉に想いを託すという決断には、言葉とともに生きる者の決死の覚悟を感じる。言葉のもつ豊かな色を改めて教えてくれるすばらしい作品であった。上半期に鑑賞した作品のうち諸手を挙げて推したい名作。

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●『神樹の館

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日本家屋に象徴される、日本古来の「うちとそと」の理を軸に、「家=うち」の歴史の変遷を物語として語る秀作。日本人が縛られてきた“家”という伝統的主題を、家屋、祭事、伝承、言葉といった様々な切り口から語りだしてゆく。この日本固有の家の主題が、最終的に神や自然の在り方と響きあい、同じ精神を分かつ共同体としての「家」の崩壊を憂う主張に展開してゆくところは眼をみはるものがある。ただの伝奇ものと思って軽い気持ちではじめた私は度肝を抜かれてしまった。これまで読んだどの作品よりも日本の味を蜜に閉じこめた物語として推したい一作。

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●付記

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まさかPurpleの作品を高らかに褒めたたえる日が来ようとは。『水葬銀貨のイストリア』も大変すばらしかったが、言葉を扱った魂の物語ときては、私はもうひれ伏すしかありませんでした。必死に涙をこらえながら読んだのは、一昨年の年末にやった『ぼくのたいせつなもの』以来か。あと、こころがかわいい。『神樹の館』は完全に意想外で、記事を読んでいただければわかるが、私たちの生活から決して切りはなすことのできない「うちとそと」の慣習を、独特の切り口でたどった美しい怪奇譚である。『アマツツミ』と併せてこちらも強く推しておきたい。『SWANSONG』についてはもうなにも言いたくない(笑)。

本サイトでは基本的に、自分がいいと思ったものしかとりあげない方針で記事を書いており、途中で積んでしまった作品や、レビューを書かずに無視した作品も実はいくつかあります。あくまで自分が日常的に考えていること、書きたいと思っていることを残しておく場所なので、たとえば作品批判などはいまのところやるつもりはありません。それゆえここにあがる作品は総じて私のおすすめ作品と思ってもらってかまいません。

最近はアニメ離れが著しく、おそらく下半期まとめはノベルゲーム一本になるのではないかと思っています。結局のところ、観るよりも読むのが好きなのでしょう。2017年後半もできるだけ多くの作品を紹介できるようがんばってプレイしていきます。上半期もツイッターなどを通していろいろと感想をいただきました。好意的に読んでいただき大変うれしく思います。どうもありがとうございました。下半期もひき続きよろしくごひいき願います。

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