ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

市川浩『身の構造』を読む

高校の現代文の授業で読んだ本である。もっとも、この本の価値がわかったのは三十代になってからだったような気がする。あらためてふり返ってみると、高校の現代文の教材は大人になってからの自分にとても大きな影響を与えており、先生方の時代を読む眼に今…

『ヨスガノソラ』を読む

夢野久作「瓶詰地獄」とともに語られたレビューがあり、彼らのゆく末が実際にはどうなったのかがわからない、という問題が語られていた。信頼できない語り手(reliable narrator)や書簡体小説(epistolary novel)の技法をとり入れながら、複数視点の特質を…

吉本ばなな『キッチン』を読む

大学生の時なのでもう13年も前のことである。いまでもよく覚えているのは、大学近くの、いまはもうなくなってしまったカフェでひとり「キッチン2 満月」の一節を紙に書き写したことである。それを財布のなかに大事にしまって、数年のあいだもち歩いていた。…

野本寛一「神と自然の景観論」を読む

「神々の風景」は総じて変貌が著しい。それは衰微・荒廃してきているといって間違いない。その変貌と衰微は日本人の「神」の衰微であり、日本人の「心」の反映にほかならない。すべての環境問題の起点はここにある。自然のなかに神を見、その自然と謙虚に対…

ポール・オースター『鍵のかかった部屋』を読む

ニューヨーク三部作の三作目『鍵のかかった部屋』は、三作のうちで最も内省的な物語だと言ってよい。語り手の幼なじみファンショーをめぐる物語は、語り手自身を徹底的に舞台袖へと追いやり、なんの魅力のかけらもない人間として描きだす。語り手には名前す…

『フランケンシュタイン』ノート

半年近く放置していた『フランケンシュタイン』のノート。自分を戒める意味でもここに載せておこうと思う。形になりはじめた自分の文学がふたたび形を変えるのに大きな役割を果たしてくれた本作。自分の問題意識にここまで寄りそう物語はそう多くはない。 《…

『ふたりのベロニカ』を読む

ふと思い立って昔好きだった映画を観直している。ポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキは自分にとってとても重要な人物で、私のなかの東ヨーロッパはこのひとの映画によって形作られたと言ってよい。ポーランドとパリを舞台にしたキェシロフス…

2018年下半期レビューまとめ

2018年下半期に本サイトで掲載したレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。掲載作品数が少ないのはご愛嬌。 ●『超時…

『腐り姫』を読む 補遺Ⅱ(感想・レビュー)

ここのところ気になっているキーワードにimprisonment(幽閉)というものがある。この言葉を一度自分の主題としてとりあげたのは、確かエミリー・ブロンテの研究をしていた際、Richard Benvenutoの論文でimprisonmentという言葉を見つけたときであったか。エ…

メアリー・シェリー「マチルダ」を読む

私のなかでの英文学史上最高傑作『フランケンシュタイン』を生みだしたメアリー・シェリーが描く、こてこてのロマン派小説。父と娘の近親相姦“的な”感情と、自殺を主題として扱った短篇小説である。これが非常によかった。 自殺の主題については、以前にゲー…

『WHITE ALBUM』を読む(感想・レビュー)

映像の意匠、カットやシークエンスのつくり方が芸術的すぎて、まるでヨーロッパの映画を観ているような気分になった――アニメ版『WHITE ALBUM』を観るのは二度目だったが、こんなにすぐれた作品だったか、と困惑したほどである。視聴に伴い、リメイク版『WHIT…

『WHITE ALBUM2』を読む 後夜(感想・レビュー)

個人的に最も没入して読んだのは「closing chapter」である。やはり雪菜ルートはいい。「coda」のかずさルートもよかったけれど、あまりにも苦しすぎて、二度と読みたいとは思わない(四年前にも同じことを思った)。長篇作品で三部構成ともなると、読者それ…

『WHITE ALBUM2』を読む 前夜(感想・レビュー)

いつかもう一度自分のもとに呼び戻したいと強く願っていた物語。あまりにも複雑にからむ主題をどこからときほぐしたものかわからなかったこともあるが、現実もろとも串刺しにしてくる箇所があまりに多すぎて、とても素直に読めないと長く放置していた作品で…

『腐り姫』:CG Commentary

『腐り姫』レビューの番外篇。現在、本篇三周目の読みなおしに入っており、『腐り姫』は自分にとっての特別な作品となりつつある。今回はCG Commentaryとして、印象に残った主題に関するCGをとりあげた。ちなみに本記事の後半には本篇のFD『腐り姫 帰省~jam…

批評空間へのリンクについて

思い立って ErogameScape-エロゲー批評空間-のアカウントをつくりました。 ksannexさんのサマリー ErogameScape-エロゲー批評空間- PC版のページにもリンクを貼っておきましたので、よろしければどうぞ。 なお、当ブログや批評空間の記事に対する感想は、で…

『TARI TARI』を読む(感想・レビュー)

本当に細かいところまでつくり込んであることにため息がもれる。私的アニメランキングをつくったとしたら確実に五本の指に入る名作。人生で大切なことは全部ここに描かれている。なにかをつくりあげること、なにかと真剣に向きあうことを、 “生きること”とい…

『腐り姫』を読む 補遺(感想・レビュー)

『腐り姫』二周目プレイの記念として、なにか残しておけないかと書いてみた記事。これだけの名作にたった二本のレビューはあまりにもさびしいと思い、ここ数年で気になっている日本の神と“矛盾的同一”をテーマにとり、今一度『腐り姫』をあらためた。しかし…

『GUNSLINGER GIRL』を読む(感想・レビュー)

すばらしい物語というのは世の中にいくらでもあるけれど、自分にとって特別な物語というのは実はとても少ない。ここ数年で読んだ物語のうち、本作は最も衝撃が大きかった物語だと言える。とてもよい読書体験であった。これから先、おりにふれて再読をくり返…

『NHKにようこそ!』を読む(感想・レビュー)

私はこの作品にアニメで親しんできたのだが、五年くらい前にようやく漫画版を手に入れ、先日はじめて読んでみたらやはり名作だったという話。いろいろな肩書きを方便として使いながら、元気にひきこもっていた時期も長い私にとって、この物語のリアルは見て…

『娚の一生』を読む(感想・レビュー)

すぐそばで起こっていそうなリアル。それが現代の物語の時流であることは知っている。本作を読んだとき、この女主人公はきっと現実の女の面倒を物語にもちこんだ結果生まれたキャラクターだと考え、憤りを覚えた私はたぶんまだまだ思考が幼い。物語は現実を…

円城塔「松ノ枝の記」を読む

数理分野の研究者でもあった円城は、論文に書けなかったものを小説として膨らませて作品を書くのだという。確かに彼の冗長な文章を追いかけていると、ある事象についての円城自身の仮説を読んでいるかのような印象を抱く。「松ノ枝の記」では、自分の思考を…

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を読む(感想・レビュー)

マクロスシリーズがおもしろいのは、戦わないために戦う物語だからではないか。戦わないために歌という“文化”が用いられ、常識の異なる種族どうしが意思伝達をするための手段として生きてくる。私はロボットものになんの興味もないため、『マクロスF』と初代…

2018年上半期レビューまとめ

2018年上半期に本サイトで掲載したノベルゲームのレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。それではいってみましょう…

シルヴィア・プラスを読む

プラスについて書きたいことが出てきたのでまとめておく。大学時代に卒業論文をプラスで書いた私だが、その頃はプラスの文学よりも先に英語と闘わねばならず、文献もろくにあされなかった苦い思い出がある。ゆえにプラスの海外文献については手持ちのものが…

『ONE』を読む(感想・レビュー)

その後のノベルゲームの範型をつくりだしたとも言われる『ONE』は、物語の展開も含めてきわめてパターン化されており、「物語」というよりも「ゲーム」という印象を強く受ける作品であった。おそらくこれがもともとのノベルゲームの形なのだろう。プレイなか…

日本語の代名詞を読む

よそで書いたエッセイなのだが、そろそろ時効だと思うので掲載してもよいかと。代名詞と文化現象の関係を一度まとめておきたいと思い、和辻の哲学から着想を得て、三浦つとむや大野晋の理論基盤を基軸としてまとめた言語論考。言語学の先生に査読をしてもら…

sakuraCafe『storia』を読む

2018年4月の末、春のM3でリリースされたsakuraCafeの2ndアルバム『storia』は、タイトルにあらわれている通り、とても文学的な色合いの強い作品である。アルバムを聴きながら、なぜこんなにも文学を感じるのだろうと考えていたら、ふと追いかけた詞の一節に…

『水葬銀貨のイストリア』: CG Commentary II

『イストリア』のCG Commentary第二弾。前記事の続き。『紙の上の魔法使い』も含め、ルクルのシナリオは次々と厚く塗り重ねてゆくような物語であるため、人物それぞれの経験に裏づけられた言葉の重みも魅力のひとつと言える。そういった言葉は、たとえ物語の…

『吉野葛・蘆刈』を読む

抱きあわせの小品として岩波文庫に収録された両作は、同じ「奥」の秘密に分入る昔語りの物語である。『神樹の館』や和辻哲郎の記事でとりあげたように、「奥」というのは日本文化において特異な意義をもち、つねに位相の高い場所として表現されてきた。奥の…

『水月』を読む 後夜(感想・レビュー)

『水月』がまさか依代の物語だとは知らなかったので、那波ルートを終えたときの充実感はひとしおであった。本作を名作たらしめているのは、作中に撒いた民俗の情報をかき集めるだけでなく、それらの根幹にあったひととひととの関わりの歴史に注視し、語り尽…