ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『腐り姫』を読む 補遺Ⅱ(感想・レビュー)

ここのところ気になっているキーワードにimprisonment(幽閉)というものがある。この言葉を一度自分の主題としてとりあげたのは、確かエミリー・ブロンテの研究をしていた際、Richard Benvenutoの論文でimprisonmentという言葉を見つけたときであったか。エ…

メアリー・シェリー「マチルダ」を読む

私のなかでの英文学史上最高傑作『フランケンシュタイン』を生みだしたメアリー・シェリーが描く、こてこてのロマン派小説。父と娘の近親相姦“的な”感情と、自殺を主題として扱った短篇小説である。これが非常によかった。 自殺の主題については、以前にゲー…

『WHITE ALBUM』を読む(感想・レビュー)

映像の意匠、カットやシークエンスのつくり方が芸術的すぎて、まるでヨーロッパの映画を観ているような気分になった――アニメ版『WHITE ALBUM』を観るのは二度目だったが、こんなにすぐれた作品だったか、と困惑したほどである。視聴に伴い、リメイク版『WHIT…

『WHITE ALBUM2』を読む 後夜(感想・レビュー)

個人的に最も没入して読んだのは「closing chapter」である。やはり雪菜ルートはいい。「coda」のかずさルートもよかったけれど、あまりにも苦しすぎて、二度と読みたいとは思わない(四年前にも同じことを思った)。長篇作品で三部構成ともなると、読者それ…

『WHITE ALBUM2』を読む 前夜(感想・レビュー)

いつかもう一度自分のもとに呼び戻したいと強く願っていた物語。あまりにも複雑にからむ主題をどこからときほぐしたものかわからなかったこともあるが、現実もろとも串刺しにしてくる箇所があまりに多すぎて、とても素直に読めないと長く放置していた作品で…

『腐り姫』:CG Commentary

『腐り姫』レビューの番外篇。現在、本篇三周目の読みなおしに入っており、『腐り姫』は自分にとっての特別な作品となりつつある。今回はCG Commentaryとして、印象に残った主題に関するCGをとりあげた。ちなみに本記事の後半には本篇のFD『腐り姫 帰省~jam…

批評空間へのリンクについて

思い立って ErogameScape-エロゲー批評空間-のアカウントをつくりました。 ksannexさんのサマリー ErogameScape-エロゲー批評空間- PC版のページにもリンクを貼っておきましたので、よろしければどうぞ。 なお、当ブログや批評空間の記事に対する感想は、で…

『TARI TARI』を読む(感想・レビュー)

本当に細かいところまでつくり込んであることにため息がもれる。私的アニメランキングをつくったとしたら確実に五本の指に入る名作。人生で大切なことは全部ここに描かれている。なにかをつくりあげること、なにかと真剣に向きあうことを、 “生きること”とい…

『腐り姫』を読む 補遺(感想・レビュー)

『腐り姫』二周目プレイの記念として、なにか残しておけないかと書いてみた記事。これだけの名作にたった二本のレビューはあまりにもさびしいと思い、ここ数年で気になっている日本の神と“矛盾的同一”をテーマにとり、今一度『腐り姫』をあらためた。しかし…

『GUNSLINGER GIRL』を読む(感想・レビュー)

すばらしい物語というのは世の中にいくらでもあるけれど、自分にとって特別な物語というのは実はとても少ない。ここ数年で読んだ物語のうち、本作は最も衝撃が大きかった物語だと言える。とてもよい読書体験であった。これから先、おりにふれて再読をくり返…

『NHKにようこそ!』を読む(感想・レビュー)

私はこの作品にアニメで親しんできたのだが、五年くらい前にようやく漫画版を手に入れ、先日はじめて読んでみたらやはり名作だったという話。いろいろな肩書きを方便として使いながら、元気にひきこもっていた時期も長い私にとって、この物語のリアルは見て…

『娚の一生』を読む(感想・レビュー)

すぐそばで起こっていそうなリアル。それが現代の物語の時流であることは知っている。本作を読んだとき、この女主人公はきっと現実の女の面倒を物語にもちこんだ結果生まれたキャラクターだと考え、憤りを覚えた私はたぶんまだまだ思考が幼い。物語は現実を…

円城塔「松ノ枝の記」を読む

数理分野の研究者でもあった円城は、論文に書けなかったものを小説として膨らませて作品を書くのだという。確かに彼の冗長な文章を追いかけていると、ある事象についての円城自身の仮説を読んでいるかのような印象を抱く。「松ノ枝の記」では、自分の思考を…

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を読む(感想・レビュー)

マクロスシリーズがおもしろいのは、戦わないために戦う物語だからではないか。戦わないために歌という“文化”が用いられ、常識の異なる種族どうしが意思伝達をするための手段として生きてくる。私はロボットものになんの興味もないため、『マクロスF』と初代…

2018年上半期レビューまとめ

2018年上半期に本サイトで掲載したノベルゲームのレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。それではいってみましょう…

シルヴィア・プラスを読む

プラスについて書きたいことが出てきたのでまとめておく。大学時代に卒業論文をプラスで書いた私だが、その頃はプラスの文学よりも先に英語と闘わねばならず、文献もろくにあされなかった苦い思い出がある。ゆえにプラスの海外文献については手持ちのものが…

『ONE』を読む(感想・レビュー)

その後のノベルゲームの範型をつくりだしたとも言われる『ONE』は、物語の展開も含めてきわめてパターン化されており、「物語」というよりも「ゲーム」という印象を強く受ける作品であった。おそらくこれがもともとのノベルゲームの形なのだろう。プレイなか…

日本語の代名詞を読む

よそで書いたエッセイなのだが、そろそろ時効だと思うので掲載してもよいかと。代名詞と文化現象の関係を一度まとめておきたいと思い、和辻の哲学から着想を得て、三浦つとむや大野晋の理論基盤を基軸としてまとめた言語論考。言語学の先生に査読をしてもら…

sakuraCafe『storia』を読む

2018年4月の末、春のM3でリリースされたsakuraCafeの2ndアルバム『storia』は、タイトルにあらわれている通り、とても文学的な色合いの強い作品である。アルバムを聴きながら、なぜこんなにも文学を感じるのだろうと考えていたら、ふと追いかけた詞の一節に…

『水葬銀貨のイストリア』: CG Commentary II

『イストリア』のCG Commentary第二弾。前記事の続き。『紙の上の魔法使い』も含め、ルクルのシナリオは次々と厚く塗り重ねてゆくような物語であるため、人物それぞれの経験に裏づけられた言葉の重みも魅力のひとつと言える。そういった言葉は、たとえ物語の…

『吉野葛・蘆刈』を読む

抱きあわせの小品として岩波文庫に収録された両作は、同じ「奥」の秘密に分入る昔語りの物語である。『神樹の館』や和辻哲郎の記事でとりあげたように、「奥」というのは日本文化において特異な意義をもち、つねに位相の高い場所として表現されてきた。奥の…

『水月』を読む 後夜(感想・レビュー)

『水月』がまさか依代の物語だとは知らなかったので、那波ルートを終えたときの充実感はひとしおであった。本作を名作たらしめているのは、作中に撒いた民俗の情報をかき集めるだけでなく、それらの根幹にあったひととひととの関わりの歴史に注視し、語り尽…

『水月』を読む 前夜(感想・レビュー)

洞窟に入ったときの「ひた、ひた」という擬音は、間違いなく折口信夫の『死者の書』の冒頭を意識したものであろう。その時点でこちらもそれなりに身構えるもので、続く洞窟や“籠もり”の表象、海洋信仰の提示といった仕掛けの数々を受けて、やっぱりな、とい…

『飛魂』を読む

多和田の文学について書いたのはもう五年近くも前になるが、そのときに指摘したのは、言葉のもつ不確かな性質、あいまいさについてであった。それはたとえば、「つくえ」という物体をあらわすとき、「机」と「desk」のどちらの方が“より「つくえ」らしいか”…

私のノベルゲーム10選

来年度からふたたび戦場に赴く自身への手向けとして、これまでプレイしたノベルゲームから甲乙つけがたい10作品を選び、褒めちぎっただけの記事。一人称的な思い出語りで所感をたれ流してゆきます。ゲーマーの常識である思い出補正満載。ここ数年のノベルゲ…

『アオイトリ』を読む(感想・レビュー)

発売前から『アマツツミ』と対になる作品として注目を集めた『アオイトリ』。その予告通り、日本と西洋の信仰、言葉(言霊)の主題といった明快なものだけでなく、particularity とuniversalityや部分と全体の主題までをも織込んだ意欲作であった。大局的に…

2017年の読書をふり返る

昨年は試験や仕事がずいぶん忙しくなったせいでめっきり量が減った感がある。しかし拾い読みはいつにも増して多く、実際に吸収できたものはかなり多かったように思う。残念ながら漫画にふれる時間はまったくなかった。昨年同様、ノベルゲームについては、下…

『水葬銀貨のイストリア』: CG Commentary I

名言アルバム『イストリア』のCG Commentary第一弾。生きるうえではあまり役に立たないが、誰もが心にとめてあること、そんな形容がふさわしい言葉が多かったような気がする。本作は正義についての深い洞察が見えるけれど、それについては前記事においてある…

『時間の闇の中で』を読む(感想・レビュー)

Ten Minutes Olderというオムニバス形式の連作映画は、様々な映画監督が10分の短篇映画を撮り、それらを短篇集とした束ねた製作企画であった。「イデアの森」と「メビウスの森」の二部から成り、ゴダールが制作した『時間の闇の中で(Dans le noir du temps …

『SNOW』を読む(感想・レビュー)

「『AIR』と同じ」と豪語するひとが、どれほどまともな眼でこの物語を読んだのか見てやろう、というよこしまな動機で手をつけた本作である。結論から言えば、構成面の類似だけでなく、大きな主題に関しても確かに『AIR』に通底する点が多かった。しかし私の…