ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

西田幾多郎を読む

木村敏がなぜ西田を重要視したのかが最近になってようやくわかってきた。西田は矛盾する要素を併せもつ主体として自己を捉え、また行為する働きそのものとして捉えてもいる。すなわち自己とは、他から働きかけられる存在でありながらも、他に働きかける存在…

『ナルキッソス0』を読む(感想・レビュー)

7F創設の歴史が語られる本作『ナルキッソス0』。よい意味で期待を裏切るような物語であったと言えるのではないか。当初は「創設の歴史」と聞いて予想される安易な展開を危惧していた私だったが、片岡さんの手にかかるとやはりそんなものは杞憂でしかなく、大…

『天使のいない12月』を読む(感想・レビュー)

まーた古いものをあさった結果『Crescendo』のような短篇を掘りあてた。エロゲーマーならみな一度はやっているであろう良作のひとつ。2003年の作品ながらCGがとてもよく、しかも各ルートで数時間でできるのは私にとってはほどよい。また物語のまとめ方も大変…

エミリー・ディキンソンを読む(Margaret Homans 註釈)

エミリー・ブロンテの研究で世話になったマーガレット・ホーマンズ(Margaret Homans)の文献がたまたま眼に入り、そういえばディキンソンについて書いたものが入っていたはずだと読んでみたところ、なかなかおもしろいことが書いてあった。いまの自分の考え…

『枯れない世界と終わる花』: CG Commentary

扱う主題は大きいが、とてもきれいにまとめてある短い物語。それぞれのキャラクターがものすごく立っていて、日々に疲れた私を心の底から癒やしてくれた作品。テーマ云々を講じるよりは、キャラクターの魅力や言葉を楽しく共有したい作品だった。今回はCG集…

『アマツツミ』: CG Commentary

CG鑑賞記事第二弾。今回は名言の宝庫『アマツツミ』より抜粋。言葉についての物語だけあって言葉の力強さが随所で光る作品である。使いたかったCGがたくさん残っているので、ここで一挙に紹介していきたいと思う。 ●「他人はもう1人の自分だよ」 自分が複数…

『AIR』を読む 補遺(感想・レビュー)

研究者としての性とも言うべきか、『AIR』を読み終えてからの数箇月間、熊野や自然信仰、口頭伝承、あるいは景観工学についての文献をいろいろとあたってきた。特に熊野の文献については、私がほしいと思っていた情報がほぼすべて手に入り、そのおかげで『AI…

『ファタモルガーナの館』を読む 後夜(感想・レビュー)

ファタモルガーナ(Fata Morgana)はイタリア語で「蜃気楼」や「幻影」という意味らしく、また「ファタ」には “妖精”といった意味があるのだという。この形容詞がモルガーナにつけられている皮肉は、物語を読んだあとでは、ただの気の利いた皮肉として見過ご…

『ファタモルガーナの館』を読む 前夜(感想・レビュー)

しかしよくぞこんな話を思いついたものである。非常に文学性の高い作品ながらも、ヴィジュアル・サウンド・ノベルの特性を余すことなく活用した、魂の傑作と言わざるをえない。さすがに参った。これはすごい。ポップ・カルチャーの表現媒体をここまでハイ・…

『アマツツミ』を読む 響子ルート(感想・レビュー)

ふと思いたったのが、響子ルートとシュペルヴィエル「海に住む少女」との物語の符号である。この観点からなら響子と鈴夏の物語に大事な価値を見出せるかもしれないと思いふたたびとりあげることにした。もともと鈴夏ルートはほたるルートの前座として、分裂…

 『らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~』(感想・レビュー)

誰もが認めるエロゲーマーのバイブル『らくえん』をプレイ。なんだこのゲーム最高かよ。やろうかどうか遅疑逡巡しているひとがいるならぜひいますぐにでも手にとるべき作品である。とにかく面白い。そのひと言。思考を働かせて愉しむゲームではないため、今…

低・中評価のノベルゲームを読む

世間の評価はたいして高くないものの、個人的に思入れのあるノベルゲームをまとめて紹介。世の中の平均的評価と自分の評価が一致しないのはどの分野でも定番である。埋もれた名作とまではさすがに言うつもりはないけれど、気が向いたら手にとってみてほしい…

“ゆがみ”を読む 第三夜(『あいだ』)

木村敏の記念碑的作品と見做されるのが本書『あいだ』である。前期と後期の橋渡しのような位置にある著作だと言ってよいかと思う。自己を“関係”として捉え、他者との「あいだ」に自己が成立すると主張する木村の哲学は、人間が誰かとの――あるいはなにかとの―…

『腐り姫』を読む 後夜(感想・レビュー)

前夜の記事では、本作の大きな特徴である閉塞した循環に光を当てて物語を検めた。当然のごとく思い浮かぶひとつの大きな疑問は、ここまでおそろしく閉じた二人関係を突きつめる意義がいったいどこにあるのか、という実に素朴な疑問である。すなわち、同じ営…

『腐り姫』を読む 前夜(感想・レビュー)

これは“内側に閉じたセカイ系”とでも言うべきなのか。読書というのは往々にして同じテーマを呼びこむもので、この前にプレイしていた『AIR』や『神樹の館』と問題意識を分かち、家の因縁を受けついで延々とくり返しつづける恐ろしい物語である。五樹と樹里だ…

“ゆがみ”を読む 第ニ夜(『時間と自己』)

『自覚の精神病理』でもふれた、「こと」と「もの」というおなじみの議論から、時間=自己という考え方を導入し、分裂病(統合失調症)や鬱病の議論へと進んでゆく本書は、木村の中期までの哲学を体系的にまとめ直した、入門にふさわしい一冊である。木村敏…

『AIR』を読む 後夜(感想・レビュー)

『AIR』ではどのルートでも“夢”が大きな役割を果たし、人物たちの自己同一性にゆさぶりをかけ続ける。夢とはすなわち物語である――本作は物語についての物語、言うなれば、私たちが物語とどう付きあってゆくのかを問いかける物語でもあり、現実と物語の関係に…

『AIR』を読む 前夜(感想・レビュー)

予想をはるかに上回るほどの日本的な物語であった。こういうものを読むと、私たちは日本人として同じ固有の特質を共有しているのだなあと強く感じる。日本人が背負ってきた“家”という宿命や、村社会における排他的な差別思想、関係の病など、私たちが“臆”で…

“ゆがみ”を読む 第一夜(木村敏『自覚の精神病理』)

ドイツで書いた論文を邦訳して出版した、木村敏の文字通り最初の著作である。ヨーロッパから輸入しただけの日本の精神病理学を、日本人に適応するため“日本的に”変革しようと試みたのが本論であり、中期・後期にわたる木村の思索の萌芽が垣間見える重要な一…

エロゲーブロガーへの66の質問

壮大な自己紹介記事。これもよい機会だと思い、拾った素材を使ってみた次第。最後のほうはほとんどいらないと思ったが、まあたまにはこういうのもいいでしょう。 1. お名前は? K 2. 由来は? 名前のイニシャル。英国留学時、日本人の名前は発音も珍しく覚え…

『少女アクティビティ』を読む(感想・レビュー)

アイキャッチがロシアンフォルマリズムのエル・リシツキーのデザインに似ている。まあそれはともかくとして。 『少女マイノリティ』がとてもよかったのになにも書けず悔しかったので『少女アクティビティ』も併せてプレイした。『マイノリティ』に比べて『ア…

夢野久作を読む

『ドグラ・マグラ』だけでなく、「瓶詰の地獄」や「死後の恋」もまた、自己の基盤が足元から崩れさるような物語であった。夢野久作はそれを“生来の運命”に紐づけて語り、多くの作品で家や出生の問題を中心に据える。『ドグラ・マグラ』の面白いところは、ほ…

『ナルキッソス -スミレ-』を読む(感想・レビュー)

『ナルキッソス -スミレ-』に見られる人物再登場――ある作品の作中人物を他作品に登場させる手法――は、バルザックやディケンズの作品にもある昔から好まれた試みのひとつ。20世紀以降に理論批評が台頭し、metaphysicalという形容詞がクリシェのように使われる…

『すみれ』を読む(感想・レビュー)

・・・・・・ん?浅いぞ?というのが読了後の率直な感想。それはおそらく私がナルキッソスシリーズの深みをのぞいたことのある人間だからなのでしょう。しかしながらいろいろと面白い試みもあったのでそのことについてここでは少しふれておこうと思う。決して面白…

“ゆがみ”を読む 前夜

「・・・・・・いっそのこと、何もかも全ての境界が壊れてなくなってしまえばいいのに。そしてこのあまりにも公平な現実世界を、少し歪めて欲しい。」(唐辺葉介『つめたいオゾン』) わたくしごとになるが、2015年の私にとって最も大切な書き手でありつづけたのは…

『紙の上の魔法使い』: CG Commentary

「明らかに現実的な生きた完全なもの」として、すなわち自己の「健全さと妥当性」を疑うことのない人物。こうした人間を描かないカフカの作品を称してR・D・レインは次のように述べる。「事実、このような確信なしに生きるとはどういうことなのかを伝えよう…

2017年上半期レビューまとめ

2017年上半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。プレイした時期が一年以上前のものも混ざっているため、今年鑑賞したものには、作品名の横に2017と表記しておきました(発売・…

『Light, Grass, and Letter in April』を読む

数年前に一度Inger Christensenのalphabetを記事としてとりあげたことがある。残念ながら彼女の作品は邦訳版が出版されておらず、私も英語版でしか読めていないのが現状である。しかしながら、Susanna Nied訳のalphabetはアメリカで翻訳賞を受賞しており、非…

『神樹の館』を読む(感想・レビュー)

さすがにここまでは予想していなかった、というほどの仕上がり。これはすごい。日本古来の“家”の慣習と歴史=物語に対する深い洞察だけでなく、異類婚姻譚、日本の神、明治維新から大正にかけての和洋折衷文化、言葉遊びといった日本の伝統を余すことなく盛…

精神病理学の読書案内

“自己診断”を目的とした精神病理学についての文献精査をはじめたのが三、四年ほど前のことである。もちろん、心の病をもつひとにとって自己診断はご法度であり、私は全力でその地雷を踏み抜いているわけだが、仕組みや傾向を体系的に理解するというのはなか…