ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『AIR』を読む 前夜(感想・レビュー)

予想をはるかに上回るほどの日本的な物語であった。こういうものを読むと、私たちは日本人として同じ固有の特質を共有しているのだなあと強く感じる。日本人が背負ってきた“家”という宿命や、村社会における排他的な差別思想、関係の病など、私たちが“臆”で…

“ゆがみ”を読む 第一夜(木村敏『自覚の精神病理』)

ドイツで書いた論文を邦訳して出版した、木村敏の文字通り最初の著作である。ヨーロッパから輸入しただけの日本の精神病理学を、日本人に適応するため“日本的に”変革しようと試みたのが本論であり、中期・後期にわたる木村の思索の萌芽が垣間見える重要な一…

エロゲーブロガーへの66の質問

壮大な自己紹介記事。これもよい機会だと思い、拾った素材を使ってみた次第。最後のほうはほとんどいらないと思ったが、まあたまにはこういうのもいいでしょう。 1. お名前は? K 2. 由来は? 名前のイニシャル。英国留学時、日本人の名前は発音も珍しく覚え…

『少女アクティビティ』を読む(感想・レビュー)

アイキャッチがロシアンフォルマリズムのエル・リシツキーのデザインに似ている。まあそれはともかくとして。 『少女マイノリティ』がとてもよかったのになにも書けず悔しかったので『少女アクティビティ』も併せてプレイした。『マイノリティ』に比べて『ア…

夢野久作を読む

『ドグラ・マグラ』だけでなく、「瓶詰の地獄」や「死後の恋」もまた、自己の基盤が足元から崩れさるような物語であった。夢野久作はそれを“生来の運命”に紐づけて語り、多くの作品で家や出生の問題を中心に据える。『ドグラ・マグラ』の面白いところは、ほ…

『ナルキッソス -スミレ-』を読む(感想・レビュー)

『ナルキッソス -スミレ-』に見られる人物再登場――ある作品の作中人物を他作品に登場させる手法――は、バルザックやディケンズの作品にもある昔から好まれた試みのひとつ。20世紀以降に理論批評が台頭し、metaphysicalという形容詞がクリシェのように使われる…

『すみれ』を読む(感想・レビュー)

・・・・・・ん?浅いぞ?というのが読了後の率直な感想。それはおそらく私がナルキッソスシリーズの深みをのぞいたことのある人間だからなのでしょう。しかしながらいろいろと面白い試みもあったのでそのことについてここでは少しふれておこうと思う。決して面白…

“ゆがみ”を読む 前夜

「・・・・・・いっそのこと、何もかも全ての境界が壊れてなくなってしまえばいいのに。そしてこのあまりにも公平な現実世界を、少し歪めて欲しい。」(唐辺葉介『つめたいオゾン』) わたくしごとになるが、2015年の私にとって最も大切な書き手でありつづけたのは…

『紙の上の魔法使い』を読む 続(感想・レビュー)

「明らかに現実的な生きた完全なもの」として、すなわち自己の「健全さと妥当性」を疑うことのない人物。こうした人間を描かないカフカの作品を称してR・D・レインは次のように述べる。「事実、このような確信なしに生きるとはどういうことなのかを伝えよう…

2017年上半期レビューまとめ

2017年上半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。プレイした時期が一年以上前のものも混ざっているため、今年鑑賞したものには、作品名の横に2017と表記しておきました(発売・…

『Light, Grass, and Letter in April』を読む

数年前に一度Inger Christensenのalphabetを記事としてとりあげたことがある。残念ながら彼女の作品は邦訳版が出版されておらず、私も英語版でしか読めていないのが現状である。しかしながら、Susanna Nied訳のalphabetはアメリカで翻訳賞を受賞しており、非…

『神樹の館』を読む(感想・レビュー)

さすがにここまでは予想していなかった、というほどの仕上がり。これはすごい。日本古来の“家”の慣習と歴史=物語に対する深い洞察だけでなく、異類婚姻譚、日本の神、明治維新から大正にかけての和洋折衷文化、言葉遊びといった日本の伝統を余すことなく盛…

精神病理学の読書案内

“自己診断”を目的とした精神病理学についての文献精査をはじめたのが三、四年ほど前のことである。もちろん、心の病をもつひとにとって自己診断はご法度であり、私は全力でその地雷を踏み抜いているわけだが、仕組みや傾向を体系的に理解するというのはなか…

『アマツツミ』を読む(感想・レビュー)

日本のお家芸、異類婚姻譚の類型・亜種とも言える物語。『明日の君と逢うために』も然り、Purpleは“踏みこえる”という主題が好きなのだろうか。ライターはちがうようだが、踏みこえていった明日香と、踏みこえてきた誠や愛には、共有される問題がありなかな…

V・v・ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス』を読む

ヴァイツゼッカーを日本に紹介した木村敏の功績は非常に大きい。神経科医であったヴァイツゼッカーは、フロイトの精神分析学を出発点として独自の思索を展開し、主体についての重要な考えを提示した。本書では生物学的観点に重きを置きながらも、精神病理学…

『死体泥棒』を読む

小説として出版されている瀬戸口(唐辺)作品のうちで最もよい作品だと思う。彼の物語は総じて同じ主題を追求したものなのだと改めて感じる。個人的には、小手先だけでいろんな主題を書き分ける作家が大嫌いなので、血を流しながら同じ主題を何度も何度も書…

 『水葬銀貨のイストリア』を読む 後夜(感想・レビュー)

いつみや灯、あるいはC・Aとしての英士も然り、別の人間としてもう一度親しい人間の日常に戻ってくるというのは『紙まほ』でもあった主題。不連続の自己を連続した自己として捉え、その意義を見つけるためにもう一度他者と関係するさまは、月社妃がこぼした…

『水葬銀貨のイストリア』を読む 前夜(感想・レビュー)

調べてみると「イストリア」とは、ギリシャ語のistoríaないしラテン語のhistoria(hは無音のh)のことのようで、フランス語のhistoireと同じように、これらの言葉には「物語」という意味がある。物語=歴史という観点から語られた物語(tale / story)が『水…

ノベルゲームの精神病理を読む

これまでプレイしてきたノベルゲームより、特に不連続な自己の問題に着眼した秀作を選定、紹介してみたい。読者の需要も影響してか、ノベルゲームでは自己の問題を深く堀りさげた物語が多く、自己と環境との軋轢が積極的に主題化されてきた。今回はサイトで…

恣意的アニメ概論 後夜

深刻な社会問題をアニメ化するなど不謹慎極まりない、と言う大人には、それでは若者が主体的に社会問題を考えたくなるような策を別に提示してみろ、と言っておく。語る価値のない作品もかなり多い表現領域だが、それなりに意義をもった、議論されるべき物語…

恣意的アニメ概論 前夜

昨年度に仕事で行った講義でアニメについてとりあげる機会があり、いくつかの窓を用意するような形で、連関しないトピックを並べて話をした。日本の文化的特徴を映したポストモダン的主題、として以下の話を総括することもできるが、私が恣意的に気になる話…

『半分の月がのぼる空』を読む(感想・レビュー) 続

文春文庫版には収録されていない、完結編とも言える挿話を収録した、電撃文庫版『半分の月がのぼる空 6』のレビュー。いろいろな局面で立ちどまっていたひとたちが、もう一度走りはじめるまでを追いかけた本巻も、相変わらずすばらしい仕上がりとなっている…

『花咲くいろは』を読む(感想・レビュー)

能登旅行記念に全話を通して見直してみたところ、やはりひと味ちがう面白さがあり、改めて感服した。仕事についての安い教訓を繰り言のように並べる作品がいまだ多いなかにあって、そういった押しつけがましい科白をいっさい挟むことなく、仕事の良し悪しを…

『生命のスペア』を読む(感想・レビュー)

“I was born for you”という副題については、恵璃の妹璃亜が姉のスペアであるということ、そして竜次が兄のスペアを強要された過去をもつこと、竜次と恵璃の死とひきかえに璃亜が第二の生を授かったことなど、いろいろと含みがあるようである。臓器移植の一…

『眠れる美女』を読む

川端康成は日本ではじめてノーベル文学賞を受賞した作家であった。そのこと自体は誰でも知っているだろうが、こんなに気持ちの悪いことばかり書く作家が、日本の文学を象徴すると国外で認められた事実に自覚的であるひとは少ないのではないだろうか。私はと…

『Crescendo』を読む(感想・レビュー)

もはや普通の小説である。アニメその他にある軽快で現実離れした会話のかけあいは一切ない。いまこういう筆致で書いているのはInnocent Greyのライターぐらいのものではないだろうか・・・・・・などと感慨にふけった。 血の繋がりがないとわかった途端に姉を犯す…

『猫物語』を読む(感想・レビュー)

以前とりあげた『花物語』に続いて今回は『猫物語』(つばさタイガー)をとりあげてみたい。化物語シリーズのくどさは折紙つきであり、さらにはシリーズをある程度追わなければこの物語にはたどりつかないわけだけれど、改めて見てみると、なるほどこれは面…

ヴィスワヴァ・シンボルスカを読む

私が大学生のころに夢中で観た映画はクシシュトフ・キェシロフスキ(Krzysztof Kieślowski)の作品群である。面白いことに彼の代表作「トリコロール三部作」のうち『赤の愛』はシンボルスカの詩に影響を受けたものなのだという。そんな偶然も手伝って、おり…

『SWANSONG』を読む 後夜(感想・レビュー)

柚香の言う、「ここでは何か望まないと、最低でも望むフリをしないと、まともに生きていけない」という言葉は、普通の社会生活にもそのまま当てはまるものであり、『CARNIVAL』が暴きだした過酷な真実でもあった。学と理沙の生き方は、ニーチェやキルケゴー…

『SWANSONG』を読む 前夜(感想・レビュー)

なんだ、ただの文学か。現在の出版事情ではこうした物語を表に出すのは難しく、まさにアダルト・ノベルゲームだからこそ、実現できた作品といってよいのではないだろうか。それにしてもすさまじい力をもった物語であった。 オウムの事件は“物語”という天災が…

『日本近代文学の起源』を読む

本作を読んでの一番の収穫は国木田独歩の描写にふれることができた経験であった。独歩の描写をひきながら展開する「風景の発見」も然り、「内面の発見」、「告白の制度」と、どれもかなり力のある論考だったという所感。一年ぶりに読み返してみて、以前より…

『見上げてごらん、夜空の星を』を読む(感想・レビュー)

ふたご座流星群に合わせてプレイしはじめた本作。久々に穏やかな良作に浸った気がする。どう読むとかそういう問題じゃない普通の物語なので、あらすじなど追いかけながら、いつもとはちがった心持ちで紹介していきたい。沙夜isゴッド。 ●空白の三年間:沙夜√…

『PSYCHE』を読む(感想・レビュー)

こんなに広いのに、その隅々までほんの少しの狂いもなく完全に行き届いているって、そんなこと、本当にあるんだろうか? もしそれが本当だとしたら、僕も完全に行き届いているのだろうか? 心も体も、それをつくる何もかもが正確に動作しているのだろうか?…

2016年の読書をふり返る

精神病理学の文献精査から、今年は本格的に哲学の文献に傾倒した感があり、物語の量が少ない。それ自体は自分にとって必要な手続きだったので特に感慨はないものの、やはり全体的には読む量が減ってしまったのが残念。書き込みは必須、再読も必須となれば、…

『最終試験くじら』を読む(感想・レビュー)

あまりにもひどいテキストなのになぜか擁護したくなる作品のひとつ。シナリオの大半は語るに値せず、十代の素人でもここまでひどいテキストは書かないだろうと言いたくなるレベルであり、私自身まともに読んだテキストよりスキップしながら斜め読みした量の…

2016年下半期レビューまとめ

2016年下半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介していきます。漫画および文学作品ははずしているのでご注意。また、作品のなかには昨年より前に鑑賞したものもあるため、今年出逢った…

『象が踏んでも』を読む(感想・レビュー)

堀江先生の姿は何度もお見かけてしており、こちらが一方的に身近だと感じている作家でもある。私の先生の友人である日本文学の先生も、いま日本で一番いい小説を書くのは堀江だ、と酒の席で言っていた。確かに堀江先生の受賞歴はすさまじい。本当に日本人っ…

2015年の読書をふり返る

一度どうしてもこれをやってみたかった。友人と酒を飲みながら互いの書籍リストなぞ見せあいつつああだこうだ言うようなそんな体で進めてゆく。実際リアルでやってもいいのだけれど、これを書いてからでも遅くはあるまい。 <リスト> Emily Dickinson Selec…

『LOVESICK PUPPIES』を読む(感想・レビュー)

良作のなかの傑作。私のなかでは名作。テキストが抜群によく、こんなにしっかりとしたものを書けるライターはそう多くはいない。盛りあがりに欠けると言われるものの、文学が専門の私にしてみれば「盛りあがりい?はあ?」という感じでまったく気にならず。…

身体をめぐる諸問題

少し前に「サブカルの作品における身体性についてまとめてみてほしい」と珍しく依頼があったので記事としてまとめた。もともとは勉強会の先行資料として依頼を受けたため、今現在私が気にかける問題のみ扱い、諸方から恣意的に作品をひかせていただいた。本…

『キラ☆キラ』を読む(感想・レビュー)

きらりという人物にびっくりするほど魅力を感じなかった本作。いやそれは私だけなのだろうか。『CARNIVAL』の理紗を見ている私にとってきらりの不器用は不器用とは言えない。そこのところをうまく表現する言葉をいまはもち合わせていないのだが・・・・・・ひとま…

英文学おすすめ再掲

文学の過去記事紹介シリーズ最後は英文学。専門なのでやや多めの7人についての記事を再掲。 ●メアリー・シェリー sengchang.hatenadiary.com英文学の小説で一冊選べと言われたら迷わずこれを選ぶ。まさに現代の人間が読むべき珠玉の名作。1818年に書かれたに…

『天才柳沢教授の癒やしセラピー』を読む(感想・レビュー)

友人が誕生日プレゼントをくれると言うので、じゃあおれに読んでほしい本をくれと言ったら、この本をくれた。ちなみに友人は臨床心理士である。私がいまだに通院しなくて済んでいるのはこの友人のおかげでもある。 それにしても面白い本だった。どうやら魅力…

世界文学おすすめ再掲(仏・独・その他)

文学についての過去記事を紹介するシリーズ。今回は英文学を除いた海外文学より選定。いまの自分を形作ったのはこのあたりの文学。 ●インガー・クリステンセン sengchang.hatenadiary.comノーベル文学賞を受賞したデンマークの詩人。現在彼女の著作で日本語…

『運命予報をお知らせします』を読む(感想・レビュー)

美少女ゲームのお約束を次々と脱構築してゆく教科書的な作品。ある意味で批評の集積とも言える批評的作品である本作はメタ・フィクションというよりメタ・クリティークとでも言うべきか。これはこれで面白い。 それから林檎と景色の造形がすごい。特に林檎は…

『最果てのイマ』を読む 試論(感想・レビュー)

攻略サイトをつくったひともすごいけれど、場面をすべて整列しようとがんばるひとたちがもっとすごい。この記事は彼らの努力を否定するような内容ではあるが、むだな努力と言いたいわけではなく、むしろそういうひとたちがいたからこそこの発想に至ったとい…

『紙の上の魔法使い』を読む 後夜(感想・レビュー)

妃ルートの満足感は筆舌に尽くしがたい。鬱にならない作品を物語としてあまり信用できないと思ってしまう私は、めくるめく訪れる鬱エンドの連続に終始笑顔であった。まあそれはさておき。 『紙まほ』はとにかく情報量が多い。それゆえ情報の氾濫とそれによる…

『紙の上の魔法使い』を読む 前夜(感想・レビュー)

疲れた、というのが正直な感想。まるで19世紀イギリス小説を読んだあとのように、なにか書くって言ったってどこから手つけりゃいいのよ・・・・・・と途方に暮れてしまった本作。挿話の量だけでなく問題提起の量もひとしお。必ずしも個々の主題が十分表現されてい…

日本文学おすすめ再掲

過去記事のうちから、三年経ってもいまだ重要だと思う作家の記事を厳選。いま読まれてもそこまで恥ずかしくない記事だろう。たぶん。今回は現代日本文学篇。 ●柳美里 sengchang.hatenadiary.comよく炎上する面白い作家。私小説に近い作品を発表しつづける、…

『夏空のペルセウス』を読む(感想・レビュー)

一年ぶりにやり直してみると、恋ルートもそれほど悪くないな、という印象。自分たちの置かれた状況を透香との対話を通じて静かに丁寧に述懐するくだりなんかはとてもよい。この恋との物語をより現実的に語りなおした物語が『罪ノ光ランデヴー』の風香ルート…