ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『アマツツミ』を読む 響子ルート(感想・レビュー)

ふと思いたったのが、響子ルートとシュペルヴィエル「海に住む少女」との物語の符号である。この観点からなら響子と鈴夏の物語に大事な価値を見出せるかもしれないと思いふたたびとりあげることにした。もともと鈴夏ルートはほたるルートの前座として、分裂…

 『らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~』(感想・レビュー)

誰もが認めるエロゲーマーのバイブル『らくえん』をプレイ。なんだこのゲーム最高かよ。やろうかどうか遅疑逡巡しているひとがいるならぜひいますぐにでも手にとるべき作品である。とにかく面白い。そのひと言。思考を働かせて愉しむゲームではないため、今…

低・中評価のノベルゲームを読む

世間の評価はたいして高くないものの、個人的に思入れのあるノベルゲームをまとめて紹介。世の中の平均的評価と自分の評価が一致しないのはどの分野でも定番である。埋もれた名作とまではさすがに言うつもりはないけれど、気が向いたら手にとってみてほしい…

“ゆがみ”を読む 第三夜(『あいだ』)

木村敏の記念碑的作品と見做されるのが本書『あいだ』である。前期と後期の橋渡しのような位置にある著作だと言ってよいかと思う。自己を“関係”として捉え、他者との「あいだ」に自己が成立すると主張する木村の哲学は、人間が誰かとの――あるいはなにかとの―…

『腐り姫』を読む 後夜(感想・レビュー)

前夜の記事では、本作の大きな特徴である閉塞した循環に光を当てて物語を検めた。当然のごとく思い浮かぶひとつの大きな疑問は、ここまでおそろしく閉じた二人関係を突きつめる意義がいったいどこにあるのか、という実に素朴な疑問である。すなわち、同じ営…

『腐り姫』を読む 前夜(感想・レビュー)

これは“内側に閉じたセカイ系”とでも言うべきなのか。読書というのは往々にして同じテーマを呼びこむもので、この前にプレイしていた『AIR』や『神樹の館』と問題意識を分かち、家の因縁を受けついで延々とくり返しつづける恐ろしい物語である。五樹と樹里だ…

“ゆがみ”を読む 第ニ夜(『時間と自己』)

『自覚の精神病理』でもふれた、「こと」と「もの」というおなじみの議論から、時間=自己という考え方を導入し、分裂病(統合失調症)や鬱病の議論へと進んでゆく本書は、木村の中期までの哲学を体系的にまとめ直した、入門にふさわしい一冊である。木村敏…

『AIR』を読む 後夜(感想・レビュー)

『AIR』ではどのルートでも“夢”が大きな役割を果たし、人物たちの自己同一性にゆさぶりをかけ続ける。夢とはすなわち物語である――本作は物語についての物語、言うなれば、私たちが物語とどう付きあってゆくのかを問いかける物語でもあり、現実と物語の関係に…

『AIR』を読む 前夜(感想・レビュー)

予想をはるかに上回るほどの日本的な物語であった。こういうものを読むと、私たちは日本人として同じ固有の特質を共有しているのだなあと強く感じる。日本人が背負ってきた“家”という宿命や、村社会における排他的な差別思想、関係の病など、私たちが“臆”で…

“ゆがみ”を読む 第一夜(木村敏『自覚の精神病理』)

ドイツで書いた論文を邦訳して出版した、木村敏の文字通り最初の著作である。ヨーロッパから輸入しただけの日本の精神病理学を、日本人に適応するため“日本的に”変革しようと試みたのが本論であり、中期・後期にわたる木村の思索の萌芽が垣間見える重要な一…

エロゲーブロガーへの66の質問

壮大な自己紹介記事。これもよい機会だと思い、拾った素材を使ってみた次第。最後のほうはほとんどいらないと思ったが、まあたまにはこういうのもいいでしょう。 1. お名前は? K 2. 由来は? 名前のイニシャル。英国留学時、日本人の名前は発音も珍しく覚え…

『少女アクティビティ』を読む(感想・レビュー)

アイキャッチがロシアンフォルマリズムのエル・リシツキーのデザインに似ている。まあそれはともかくとして。 『少女マイノリティ』がとてもよかったのになにも書けず悔しかったので『少女アクティビティ』も併せてプレイした。『マイノリティ』に比べて『ア…

夢野久作を読む

『ドグラ・マグラ』だけでなく、「瓶詰の地獄」や「死後の恋」もまた、自己の基盤が足元から崩れさるような物語であった。夢野久作はそれを“生来の運命”に紐づけて語り、多くの作品で家や出生の問題を中心に据える。『ドグラ・マグラ』の面白いところは、ほ…

『ナルキッソス -スミレ-』を読む(感想・レビュー)

『ナルキッソス -スミレ-』に見られる人物再登場――ある作品の作中人物を他作品に登場させる手法――は、バルザックやディケンズの作品にもある昔から好まれた試みのひとつ。20世紀以降に理論批評が台頭し、metaphysicalという形容詞がクリシェのように使われる…

『すみれ』を読む(感想・レビュー)

・・・・・・ん?浅いぞ?というのが読了後の率直な感想。それはおそらく私がナルキッソスシリーズの深みをのぞいたことのある人間だからなのでしょう。しかしながらいろいろと面白い試みもあったのでそのことについてここでは少しふれておこうと思う。決して面白…

“ゆがみ”を読む 前夜

「・・・・・・いっそのこと、何もかも全ての境界が壊れてなくなってしまえばいいのに。そしてこのあまりにも公平な現実世界を、少し歪めて欲しい。」(唐辺葉介『つめたいオゾン』) わたくしごとになるが、2015年の私にとって最も大切な書き手でありつづけたのは…

『紙の上の魔法使い』を読む 続(感想・レビュー)

「明らかに現実的な生きた完全なもの」として、すなわち自己の「健全さと妥当性」を疑うことのない人物。こうした人間を描かないカフカの作品を称してR・D・レインは次のように述べる。「事実、このような確信なしに生きるとはどういうことなのかを伝えよう…

2017年上半期レビューまとめ

2017年上半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。プレイした時期が一年以上前のものも混ざっているため、今年鑑賞したものには、作品名の横に2017と表記しておきました(発売・…

『Light, Grass, and Letter in April』を読む

数年前に一度Inger Christensenのalphabetを記事としてとりあげたことがある。残念ながら彼女の作品は邦訳版が出版されておらず、私も英語版でしか読めていないのが現状である。しかしながら、Susanna Nied訳のalphabetはアメリカで翻訳賞を受賞しており、非…

『神樹の館』を読む(感想・レビュー)

さすがにここまでは予想していなかった、というほどの仕上がり。これはすごい。日本古来の“家”の慣習と歴史=物語に対する深い洞察だけでなく、異類婚姻譚、日本の神、明治維新から大正にかけての和洋折衷文化、言葉遊びといった日本の伝統を余すことなく盛…

精神病理学の読書案内

“自己診断”を目的とした精神病理学についての文献精査をはじめたのが三、四年ほど前のことである。もちろん、心の病をもつひとにとって自己診断はご法度であり、私は全力でその地雷を踏み抜いているわけだが、仕組みや傾向を体系的に理解するというのはなか…

『アマツツミ』を読む(感想・レビュー)

日本のお家芸、異類婚姻譚の類型・亜種とも言える物語。『明日の君と逢うために』も然り、Purpleは“踏みこえる”という主題が好きなのだろうか。ライターはちがうようだが、踏みこえていった明日香と、踏みこえてきた誠や愛には、共有される問題がありなかな…

V・v・ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス』を読む

ヴァイツゼッカーを日本に紹介した木村敏の功績は非常に大きい。神経科医であったヴァイツゼッカーは、フロイトの精神分析学を出発点として独自の思索を展開し、主体についての重要な考えを提示した。本書では生物学的観点に重きを置きながらも、精神病理学…

『死体泥棒』を読む

小説として出版されている瀬戸口(唐辺)作品のうちで最もよい作品だと思う。彼の物語は総じて同じ主題を追求したものなのだと改めて感じる。個人的には、小手先だけでいろんな主題を書き分ける作家が大嫌いなので、血を流しながら同じ主題を何度も何度も書…

 『水葬銀貨のイストリア』を読む 後夜(感想・レビュー)

いつみや灯、あるいはC・Aとしての英士も然り、別の人間としてもう一度親しい人間の日常に戻ってくるというのは『紙まほ』でもあった主題。不連続の自己を連続した自己として捉え、その意義を見つけるためにもう一度他者と関係するさまは、月社妃がこぼした…

『水葬銀貨のイストリア』を読む 前夜(感想・レビュー)

調べてみると「イストリア」とは、ギリシャ語のistoríaないしラテン語のhistoria(hは無音のh)のことのようで、フランス語のhistoireと同じように、これらの言葉には「物語」という意味がある。物語=歴史という観点から語られた物語(tale / story)が『水…

ノベルゲームの精神病理を読む

これまでプレイしてきたノベルゲームより、特に不連続な自己の問題に着眼した秀作を選定、紹介してみたい。読者の需要も影響してか、ノベルゲームでは自己の問題を深く堀りさげた物語が多く、自己と環境との軋轢が積極的に主題化されてきた。今回はサイトで…

恣意的アニメ概論 後夜

深刻な社会問題をアニメ化するなど不謹慎極まりない、と言う大人には、それでは若者が主体的に社会問題を考えたくなるような策を別に提示してみろ、と言っておく。語る価値のない作品もかなり多い表現領域だが、それなりに意義をもった、議論されるべき物語…

恣意的アニメ概論 前夜

昨年度に仕事で行った講義でアニメについてとりあげる機会があり、いくつかの窓を用意するような形で、連関しないトピックを並べて話をした。日本の文化的特徴を映したポストモダン的主題、として以下の話を総括することもできるが、私が恣意的に気になる話…

『半分の月がのぼる空』を読む(感想・レビュー) 続

文春文庫版には収録されていない、完結編とも言える挿話を収録した、電撃文庫版『半分の月がのぼる空 6』のレビュー。いろいろな局面で立ちどまっていたひとたちが、もう一度走りはじめるまでを追いかけた本巻も、相変わらずすばらしい仕上がりとなっている…