ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

感想・考察(レビュー)

西田幾多郎を読む

木村敏がなぜ西田を重要視したのかが最近になってようやくわかってきた。西田は矛盾する要素を併せもつ主体として自己を捉え、また行為する働きそのものとして捉えてもいる。すなわち自己とは、他から働きかけられる存在でありながらも、他に働きかける存在…

『ナルキッソス0』を読む(感想・レビュー)

7F創設の歴史が語られる本作『ナルキッソス0』。よい意味で期待を裏切るような物語であったと言えるのではないか。当初は「創設の歴史」と聞いて予想される安易な展開を危惧していた私だったが、片岡さんの手にかかるとやはりそんなものは杞憂でしかなく、大…

『天使のいない12月』を読む(感想・レビュー)

まーた古いものをあさった結果『Crescendo』のような短篇を掘りあてた。エロゲーマーならみな一度はやっているであろう良作のひとつ。2003年の作品ながらCGがとてもよく、しかも各ルートで数時間でできるのは私にとってはほどよい。また物語のまとめ方も大変…

『枯れない世界と終わる花』: CG Commentary

扱う主題は大きいが、とてもきれいにまとめてある短い物語。それぞれのキャラクターがものすごく立っていて、日々に疲れた私を心の底から癒やしてくれた作品。テーマ云々を講じるよりは、キャラクターの魅力や言葉を楽しく共有したい作品だった。今回はCG集…

『アマツツミ』: CG Commentary

CG鑑賞記事第二弾。今回は名言の宝庫『アマツツミ』より抜粋。言葉についての物語だけあって言葉の力強さが随所で光る作品である。使いたかったCGがたくさん残っているので、ここで一挙に紹介していきたいと思う。 ●「他人はもう1人の自分だよ」 自分が複数…

『AIR』を読む 補遺(感想・レビュー)

研究者としての性とも言うべきか、『AIR』を読み終えてからの数箇月間、熊野や自然信仰、口頭伝承、あるいは景観工学についての文献をいろいろとあたってきた。特に熊野の文献については、私がほしいと思っていた情報がほぼすべて手に入り、そのおかげで『AI…

『ファタモルガーナの館』を読む 後夜(感想・レビュー)

ファタモルガーナ(Fata Morgana)はイタリア語で「蜃気楼」や「幻影」という意味らしく、また「ファタ」には “妖精”といった意味があるのだという。この形容詞がモルガーナにつけられている皮肉は、物語を読んだあとでは、ただの気の利いた皮肉として見過ご…

『ファタモルガーナの館』を読む 前夜(感想・レビュー)

しかしよくぞこんな話を思いついたものである。非常に文学性の高い作品ながらも、ヴィジュアル・サウンド・ノベルの特性を余すことなく活用した、魂の傑作と言わざるをえない。さすがに参った。これはすごい。ポップ・カルチャーの表現媒体をここまでハイ・…

『アマツツミ』を読む 響子ルート(感想・レビュー)

ふと思いたったのが、響子ルートとシュペルヴィエル「海に住む少女」との物語の符号である。この観点からなら響子と鈴夏の物語に大事な価値を見出せるかもしれないと思いふたたびとりあげることにした。もともと鈴夏ルートはほたるルートの前座として、分裂…

 『らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~』(感想・レビュー)

誰もが認めるエロゲーマーのバイブル『らくえん』をプレイ。なんだこのゲーム最高かよ。やろうかどうか遅疑逡巡しているひとがいるならぜひいますぐにでも手にとるべき作品である。とにかく面白い。そのひと言。思考を働かせて愉しむゲームではないため、今…

低・中評価のノベルゲームを読む

世間の評価はたいして高くないものの、個人的に思入れのあるノベルゲームをまとめて紹介。世の中の平均的評価と自分の評価が一致しないのはどの分野でも定番である。埋もれた名作とまではさすがに言うつもりはないけれど、気が向いたら手にとってみてほしい…

『腐り姫』を読む 後夜(感想・レビュー)

前夜の記事では、本作の大きな特徴である閉塞した循環に光を当てて物語を検めた。当然のごとく思い浮かぶひとつの大きな疑問は、ここまでおそろしく閉じた二人関係を突きつめる意義がいったいどこにあるのか、という実に素朴な疑問である。すなわち、同じ営…

『腐り姫』を読む 前夜(感想・レビュー)

これは“内側に閉じたセカイ系”とでも言うべきなのか。読書というのは往々にして同じテーマを呼びこむもので、この前にプレイしていた『AIR』や『神樹の館』と問題意識を分かち、家の因縁を受けついで延々とくり返しつづける恐ろしい物語である。五樹と樹里だ…

『AIR』を読む 後夜(感想・レビュー)

『AIR』ではどのルートでも“夢”が大きな役割を果たし、人物たちの自己同一性にゆさぶりをかけ続ける。夢とはすなわち物語である――本作は物語についての物語、言うなれば、私たちが物語とどう付きあってゆくのかを問いかける物語でもあり、現実と物語の関係に…

『AIR』を読む 前夜(感想・レビュー)

予想をはるかに上回るほどの日本的な物語であった。こういうものを読むと、私たちは日本人として同じ固有の特質を共有しているのだなあと強く感じる。日本人が背負ってきた“家”という宿命や、村社会における排他的な差別思想、関係の病など、私たちが“臆”で…

『少女アクティビティ』を読む(感想・レビュー)

アイキャッチがロシアンフォルマリズムのエル・リシツキーのデザインに似ている。まあそれはともかくとして。 『少女マイノリティ』がとてもよかったのになにも書けず悔しかったので『少女アクティビティ』も併せてプレイした。『マイノリティ』に比べて『ア…

『ナルキッソス -スミレ-』を読む(感想・レビュー)

『ナルキッソス -スミレ-』に見られる人物再登場――ある作品の作中人物を他作品に登場させる手法――は、バルザックやディケンズの作品にもある昔から好まれた試みのひとつ。20世紀以降に理論批評が台頭し、metaphysicalという形容詞がクリシェのように使われる…

『すみれ』を読む(感想・レビュー)

・・・・・・ん?浅いぞ?というのが読了後の率直な感想。それはおそらく私がナルキッソスシリーズの深みをのぞいたことのある人間だからなのでしょう。しかしながらいろいろと面白い試みもあったのでそのことについてここでは少しふれておこうと思う。決して面白…

『紙の上の魔法使い』: CG Commentary

「明らかに現実的な生きた完全なもの」として、すなわち自己の「健全さと妥当性」を疑うことのない人物。こうした人間を描かないカフカの作品を称してR・D・レインは次のように述べる。「事実、このような確信なしに生きるとはどういうことなのかを伝えよう…

2017年上半期レビューまとめ

2017年上半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。プレイした時期が一年以上前のものも混ざっているため、今年鑑賞したものには、作品名の横に2017と表記しておきました(発売・…

『神樹の館』を読む(感想・レビュー)

さすがにここまでは予想していなかった、というほどの仕上がり。これはすごい。日本古来の“家”の慣習と歴史=物語に対する深い洞察だけでなく、異類婚姻譚、日本の神、明治維新から大正にかけての和洋折衷文化、言葉遊びといった日本の伝統を余すことなく盛…

『アマツツミ』を読む(感想・レビュー)

日本のお家芸、異類婚姻譚の類型・亜種とも言える物語。『明日の君と逢うために』も然り、Purpleは“踏みこえる”という主題が好きなのだろうか。ライターはちがうようだが、踏みこえていった明日香と、踏みこえてきた誠や愛には、共有される問題がありなかな…

V・v・ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス』を読む

ヴァイツゼッカーを日本に紹介した木村敏の功績は非常に大きい。神経科医であったヴァイツゼッカーは、フロイトの精神分析学を出発点として独自の思索を展開し、主体についての重要な考えを提示した。本書では生物学的観点に重きを置きながらも、精神病理学…

 『水葬銀貨のイストリア』を読む 後夜(感想・レビュー)

いつみや灯、あるいはC・Aとしての英士も然り、別の人間としてもう一度親しい人間の日常に戻ってくるというのは『紙まほ』でもあった主題。不連続の自己を連続した自己として捉え、その意義を見つけるためにもう一度他者と関係するさまは、月社妃がこぼした…

『水葬銀貨のイストリア』を読む 前夜(感想・レビュー)

調べてみると「イストリア」とは、ギリシャ語のistoríaないしラテン語のhistoria(hは無音のh)のことのようで、フランス語のhistoireと同じように、これらの言葉には「物語」という意味がある。物語=歴史という観点から語られた物語(tale / story)が『水…

ノベルゲームの精神病理を読む

これまでプレイしてきたノベルゲームより、特に不連続な自己の問題に着眼した秀作を選定、紹介してみたい。読者の需要も影響してか、ノベルゲームでは自己の問題を深く堀りさげた物語が多く、自己と環境との軋轢が積極的に主題化されてきた。今回はサイトで…

恣意的アニメ概論 後夜

深刻な社会問題をアニメ化するなど不謹慎極まりない、と言う大人には、それでは若者が主体的に社会問題を考えたくなるような策を別に提示してみろ、と言っておく。語る価値のない作品もかなり多い表現領域だが、それなりに意義をもった、議論されるべき物語…

恣意的アニメ概論 前夜

昨年度に仕事で行った講義でアニメについてとりあげる機会があり、いくつかの窓を用意するような形で、連関しないトピックを並べて話をした。日本の文化的特徴を映したポストモダン的主題、として以下の話を総括することもできるが、私が恣意的に気になる話…

『半分の月がのぼる空』を読む(感想・レビュー) 続

文春文庫版には収録されていない、完結編とも言える挿話を収録した、電撃文庫版『半分の月がのぼる空 6』のレビュー。いろいろな局面で立ちどまっていたひとたちが、もう一度走りはじめるまでを追いかけた本巻も、相変わらずすばらしい仕上がりとなっている…

『花咲くいろは』を読む(感想・レビュー)

能登旅行記念に全話を通して見直してみたところ、やはりひと味ちがう面白さがあり、改めて感服した。仕事についての安い教訓を繰り言のように並べる作品がいまだ多いなかにあって、そういった押しつけがましい科白をいっさい挟むことなく、仕事の良し悪しを…