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ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

立原道造『立原道造詩集』

文学(Literature)-立原道造 文学(Literature) 文学(Literature)-日本文学


東大在学中から三年連続で建築の賞を受賞し、詩では中原中也賞を受賞するなど、才能豊かなひとであったようだ。わずか二十四歳という若さで亡くなっている、伝説と言ってもいい詩人であろう。

堀辰雄らと親交があり、彼と同様、長野県の軽井沢に親しみをもっていた。そのため、日本の穏やかな自然の中で詠まれた素朴な詩が多いと思うが、堀のように写実的な描写ではなく、なにかひとつの場面を注視しているかのような描写対象との距離の近さを感じる。鋏で切りとった絵のような場面に、立原の囁きが付される。こんな具合だ。


 小川の水のせせらぎは
 けふもあの日とかはらずに
 風にさやさや ささやいている

 あの日のをとめのほほゑみは
 なぜだか 僕は知らないけれど
 しかし かたくつめたく 横顔ばかり


思わずくすっと笑ってしまうような一節である。彼の言葉のいいところは、むつかしいことをむつかしく考え込ませないところにある。それが親密に感じられるのは、私たちが普段、同じような問いを自分に投げかけているからでもある。


 夕やみの淡い色に身を沈めても
 それがこころよさとはもう言はない
 啼いてすぎる小鳥の一日も
 とほい物語と唄を教へるばかり

 しるべもなくて来た道に
 道のほとりに なにをならつて
 私らは立ちつくすのであらう


時おり眼にする疑問符はあくまで修辞疑問に過ぎない。私たちが普段、何気なく胸中で問いかけている疑問も、ほとんどすべてが修辞疑問である。そう簡単に解決できない問いが、なんと多くあることか。