読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』

文学(Literature)-ブロンテ, シャーロット 文学(Literature) 文学(Literature)-イギリス文学


一昨年にフランスで映画化されたことでふたたび脚光を浴びたが(何度目の映画化だろう?)、言わずと知られたシャーロットの代表作である。本作に限らず、古典的名作の美点を取捨選択して紹介するのはとてもむつかしいのだけれど、自分の文学のテーマでもある〝自然〟を中心に、ここでは『ジェイン・エア』を紹介してみようと思う。

イギリス前期ロマン派ワーズワースの影響が色濃く残る中で、本作もまた自然と心の照応関係という主題を踏襲している。ジェインの心情に響き合う形で自然がいきいきと描写されていることは、目利きでなくともすぐに分かることだと思う。しかし自然が表象するのは何も人物の心だけではなく、社会環境や慣習、土地所有者の専制的性格など多岐に亘る。特にロチェスターとの恋愛関係を育むソーンフィールドの庭園は、小説内で最も注意しなくてはならない自然のひとつであろう。

ジェインによって「エデンの園のような」自然と形容されるこの庭園は、ロチェスターとの幸福な現在、未来の表徴そのものである。華やかに彩られた庭園の外観はそのまま、幸せに満ちた明るいふたりの展望を読者に強く印象づける。その一方で、この自然があくまで〝庭〟であること―即ち、ロチェスターによって造られた人工的な自然であることを忘れてはならない。彼が「自然だけは純粋で噓のないものだ」と述べる時、そこには反語の響きが感じられる。華やかな庭園、大豪邸、自由な生活、そういったヴェイルで彼が覆い隠しているのは、実は狂女となった妻を屋根裏部屋に閉じ込めているという、彼の罪深い過去である。それが明るみに出た時、ジェインは自分が抱いてきた幸福な未来が、彼の重婚という罪によって無残に潰えてしまったことを知る。

このようにソーンフィールドの庭園は、エデンの園のようなふたりの恋愛関係を象徴すると共に、美しいもので秘密を隠し通そうとするロチェスターの狡猾な心情をも表すものとして描かれている。『ジェイン・エア』において、様々な対象が含み持つ意味の色彩は、読めば読むほど彩りを増して絶えることがない。文学のスタンダードとしてお薦めするのであれば、私はまずこの作品を採りあげたいと思うほどだ。