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ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『なついろレシピ』八重原柚ルートを読む(感想・レビュー)

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音楽のリズムに様々な料理の音を駆使して気持ちのよいBGMをつくりだした功績の大きさよ。シナリオやCGだけでなくサウンドトラックもエロゲの楽しみのひとつであることはみなさんご承知だと思うが、本作はそんななかでもおすすめの一作。重要な場面でのBGMもひとつひとつが控えめで美しい曲ばかりなのはとてもよかった。

『なついろレシピ』はPULLTOP (Airのほう)の良作。本当の良作。個人的には名作よりも良作をくり返しプレイしたくなるため本作もその例にもれないであろう。大人が子供を見守る視点と、大人とも子供とも言えない主人公の、柚を見守る視点が入れ子構造になっており、それが心地よいあたたかさを生む。残された者が亡くなった者たちとどう付きあいどう生きてゆくのかを丁寧に描いた作品だった。

以下は柚ルートの講評。

 

●役割の変化と成長の物語

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眼に見える障害をひとつ越え、またひとつ越え、ゆっくりと成長する様子が印象的だった。その障害はふたりの役割の変化を伴うもので、彼らの負うべき役割が変わるたび――ときにはそれを変化させるために――一段階ずつ前に進んでゆく。父の代わりに兄として柚を護る義務感に駆られていた岳史は、やがて柚の祖母の食堂を護る役割を担い、柚と他人であることがわかったあとも変わらず兄として彼女を護ろうと心に誓い、ついにはふたりはパートナーとして互いを認めあう。さらに二転三転あるものの、柚の母の味を自分たち家族の味として受けつぐ、というのが柚ルートのまとめになっており、本筋の肝にもきちんと“料理”が埋めこまれていることには好感をもった。

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また、死者とどう向きあうのか、という難題に自分たちなりの答えを見つける物語もまた、副旋律として常に鳴りつづける。ギャグ要員の猪左夫が、死者を送るというのは死者にとって意味のあることなのではない、と言うところは、笑いを忘れて思わずうなずいてしまった。祖母の食堂を再開し、昔の母の味をとり戻し、それらをいまだけでなくこれからの自分たちの生の一部としてもち続けようという柚と岳史の決意は、読み手の胸を強くうつものがあった。

 

 

●付記

LOVESICK PUPPIES』や『明日の君と逢うために』なんかもそうだけれど、名作じゃないけど良作で秀作、みたいな感じで心地よい。ちなみに評判のこごみルートはまだ手をつけておらず大変申しわけない。

しっかりしたテクストと手練れた語りの良作を見つけるのはなかなか大変なので、これからもなるべく多くの体験版に手をつけて、自分に合ったほのぼの系の良作を開拓したいものである。

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