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ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『パルフェ』を読む 前夜(感想・レビュー)

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いいものにはいいと言われるだけの理由があると思っている。やらずに積んでおいた『パルフェ』は私にとっての約束された名作であり、心の処方箋というこの切り札の使うべき時機を長らく見計らい、このたびようやく服用させていただきました。媚びない、詫びない、気にしない、がこのページのモットーなので、誰にも遠慮せず言わせてもらえば、丸戸さん相変わらずお見事。本当にすごすぎ。褒めちぎっておこう、こと『パルフェ』に関しては。意想外だったのは、私の心に最も響いた物語はカトレアルートだったこと。これにはきちんと理由があり、なおかつ里伽子ルートを傑作でないと言っているわけでもない。その点はあらかじめ断っておく。

長くなったので前夜と後夜の連載記事でいってみましょう。愛が重すぎて書くのに苦労した。

 

●“同じ生き方”という物語――玲愛ルート

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ある人間の否定的な部分を、まったくちがう社会や価値観に属する人間が受けいれて、救済する。そんな物語が多いノベル・ゲーム界隈では、同じ職業を選んでふたりが生きてゆく物語は実は少なかったりする。異なる者どうしが同じ方向を向く美しさもあるが、もともと同じ社会(本作の場合は洋菓子店)のもとに生きるふたりが、改めて互いに認めあい未来を切り拓いてゆくというのもなかなかよいではないか。玲愛ルートを読んでそう感じた。ともに働くという共同作業。下地として織りこまれているこうした王道の展開を通して、「同じ方向を向くこと」、すなわち同じものを大切にできるという――『罪ノ光ランデヴー』で蜜柑が主張したことを具体化して――共感関係の大切さが描かれた*。逆にこの「大切にしたいものがちがう」からこそ生まれてしまう軋轢を描いた物語が『WHITE ALBUM2』であった。

※たとえ安易な王道であってもそれが支持されているのなら躊躇なく使うべきだ、と『冴えない彼女の育て方』でも言われていたが、『パルフェ』は数々の王道を描きながらも、なおかつ王道の落ちをつけず、変化を与えていることも忘れてはならない。

頑なに仕事をまっとうする玲愛の態度は、姉である由飛にただひとつ勝るもの、胸をはれるものとして、彼女の自己同一性ともなっており、相手が仁であってもゆずることのできないものであった。だからこそ本店に戻る誘いを受けてしまった玲愛だが、仁は仕事も恋愛も両方をゆずれないものと考えており、このふたつを両立させる答えを導きだしてみせる。同じ店で仕事をするというふたりの選択は、玲愛の自己同一性を一方で尊重しながらも、ふたりの夢をあきらめずに叶えるという、唯一無二の選択だったように感じられてならない。たとえそれが思い描いた道とちがっていたとしても、その選択の先で同じ場所にたどりつけるといい。そんな切なる思いの感じられる物語だった。

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また玲愛の物語は、自分の自己存立のために必要なものが、自分の未来を堰きとめてしまう皮肉を描いた物語でもあり、このあたりのジレンマに共感したひとも多かったのではないだろうか。私が里伽子よりも玲愛に感銘を受けた理由はここにある。自分を自分たらしめるものを突きつめるよう周囲から求められ、そうしたらそうしたで今度はそれが大事なところで自分の足元をすくい、前にもうしろにも進めなくなってしまう。とりわけまだ若い玲愛がそんな状況を乗りこえて笑顔を見せるところは本当によかった。姉とはちがう自分らしさを仕事を通じて獲得したのに、皮肉にも仕事が足枷となり仁との未来に雲がかかり、それでも最終的にふたりの未来をつくりだしたのは、言うまでもなく、彼女が彼女らしくいられる洋菓子屋という仕事なのである。

それにしても、同じものを大切にして生きてゆく、という姿勢はあたたかくてとてもよい。一緒に苦労しよう、きっと楽しいから、という仁の言葉は、『パルフェ』全体が仕事で楽しく苦労する話なだけに、かなり突き刺さってきた言葉であった。って、私は攻略ヒロインかよ。

 

●かすりルート雑感

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洋風の恵麻、和風の姉、それぞれの模倣ではかなわないところを、和洋折衷のレシピを考え、そこに仁直伝のカスタードクリームを合わせることで、越えられない壁をうち破る策とする。ただ乗りこえるだけでなくそのレシピが互いの技術なくしては成立しない、という解決方法が卓抜すぎる。丸戸さん、本当に勉強になります。人生の問題というのはこういうふうに解決してゆくのですね。その段階を踏んだうえでさらに、宿敵キュリオに移籍して腕を磨き、恵麻ともう一度対決する機会を得て、なんのためにケーキをつくり続けるのかを問いなおすかすり。この、なにを一番大切だと考えるか、という選択でかすりの問題を解決するのは安易だと書いたひともいたけれど、私にはここが一番響いた。専門をもつ人間にとって、この選択肢を選ぶのには、並々ならぬ覚悟がいるのは明白だからである。

 

●明日香ルート雑感

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WHITE ALBUM2』で小春ルートを夢中でやった私は、やはり明日香ルートにも没頭してしまい、あろうことかいたく感動してしまったのもいまはいい思い出。けれど小春ルートと明日香ルートは立脚点が異なるとも思っており、ファミーユが明日香の寄りどころであるところが、あくまでこのルートの核心であるように感じられた。彼女がお店を辞めるときのたたみかけるような一連の演出は、仁との関係ではなく、むしろファミーユ再建の発端がほかならぬ明日香であった事実と響きあうものであったし、文化祭でのファミーユ支店の裏話とも相俟って、お店へのまっすぐな心がひたすらまっすぐ貫かれたところこそ、この物語の魅力であったと思うのだ。

 

●最初の付記

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私たちの抱く弱いところを否定せずすべて受けいれながら答えをだすシナリオばかりである。システムからサントラに至るまで文句のつけようがない傑作。もうびっくりするくらい名作。これが10年以上前の作品だとは本当に驚きである。

玲愛の物語にあった、同じものを大切にして、同じほうを向いて生きるという主題は、次回に触れる里伽子ルートも然り、『WHITE ALBUM2』でも扱われたもの。たとえどんなに価値観や住む世界がちがっていたとしても、同じものを大切にしたいと自らの生き方を模索する真摯な人物たちは、読者の心を強くゆさぶる。そこを鋭く捉えてくるのが丸戸シナリオの真髄なのかもしれない。

次回は満を持して里伽子ルートを読んでいきます。しばしお待ちを。

⇒『パルフェ』を読む 後夜(感想・レビュー) - ワザリング・ハイツ -annex-

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