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ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

2016年下半期レビューまとめ

ノベルゲーム(game) 感想・考察(レビュー) アニメ(anime)

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2016年下半期に本サイトで掲載したアニメおよびノベルゲームのレビューをふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介していきます。漫画および文学作品ははずしているのでご注意。また、作品のなかには昨年より前に鑑賞したものもあるため、今年出逢った作品については掲題横に「2016」と表記しておきました。

それではいってみましょう。画像とリンクがてんこ盛りのやかましい記事になってしまった。

 

●『なついろレシピ』八重原柚ルート(2016)

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役割と関係の変化を追ったとても身近な物語。一見単純な物語に見えるものの、死者との関係の変化をも巻きこんだなかなかに感慨深い物語となっており、とても好感をもった。子供なりに死を受けとめてひたむきにいまを生きようとする柚の姿は印象的。実はかなり気に入っている良作のひとつ。音楽やCGのすばらしさも筆舌に尽くしがたい。

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●『明日の君と逢うために』(2016)

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“踏みこえる”という主題をくり返し投げかけながら、一方の立場に偏ることなく、多角的に問題と向きあう自己確立の物語。自己分裂に焦点化し、過去と現在をどう結びあわせるのかを切実に問うた良作であった。異世界ものでありながらもひたすらに“こちら側”を描きリアリズムを貫き通した語りは本当にお見事。記憶と自己同一性の主題は、『12の月のイヴ』や『最果てのイマ』、『紙の上の魔法使い』などでも俎上に載せられた問題であり、本サイトでも積極的にとりあげてきた問題だった。

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●『罪ノ光ランデヴー』真澄あいルート(2016)

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『赤い蝋燭と人魚』を敷衍した絵本の執筆を通して、日本文学が伝統的に描いてきた子供像をうち崩すような生き方にたどりつく物語。歴史的自己と対峙し、それを否定することで豊かな自己を獲得せんとする彼らの態度は、日本人特有の精神病理でもある罪責妄想とも結びついており、奥深い主題の広がりが見える物語となっていた。風香√の記事については上半期に掲載済み。

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●『花物語

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感情の神原と論理の沼地がぶつかる水と油の物語。不幸は黙っていれば解決してしまうという軽口に反して、道半ばで自殺し、不幸の収集をやめることのできない沼地自身の境涯が、解決されなかった不幸の結果を如実に物語る。誰に対しての善・悪かという、伝統的な善悪論はもはやクリシェだけれども、これが報われなかった沼地の生の根幹に関わるという点では、見過ごすことのできない深刻な主題であったと言えよう。

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●『氷菓

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ふたつの日常の謎を扱う文学的推理小説。トリックと推理のほうがダシで、あくまで解けない心の謎が中心に扱われており、その点をもって私はこれを文学として評価している。様々な事件が起こるなかで、事件そのものからは離れた生の感情の衝突を経て、折木や千反田は成長してゆく。当意即妙なやりとりや機知に富んだ語りも注目に値する本作である。

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●『向日葵の教会と長い夏休み』

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当人になり替わる代理体験から自己を確立する物語。黒猫詠の生は他者の真似ごとでありながらも、それこそがまさに黒猫詠にしか営めない生であり、偽物と本物の差異は自己の本質を形作るものとして見事に解消されてゆく。ノベルゲームにはなぜか代理体験を描いた良作が多く、本作もそのうちのひとつだと言える。人間になる過程を通じて自分とはなにかを問いつづけた美しい怪奇譚。

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●『たまゆら

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自分のもつものの価値を、過去とはちがった経験のなかで、現在においていきいきと見出す自己発見の物語。諸手を挙げておすすめしたい珠玉の一作である。本当に大切なことを、本当に長い時間をかけて見つめ直そうとする、切実な物語。二世代にわたる物語であるところも特徴的で、子供たちの姿を通じ大人たちがもう一度自分と向きあうさまを描いた点は、私が本作を名作と呼びたい理由のひとつでもある。

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●『Narcissu -SIDE 2nd』

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死ぬことで、あるいは死ぬために自己確立するというパラドックスが、ナルキッソスシリーズに通底する主題のひとつでもある。代理体験を通じて自己を批判的に省みながら、自分を赦すための生を精一杯に生きる、その力強さが印象深い。静かに死を見つめながらも最後まで他者との関係のうちに自身の生を位置づけようとする姫子には胸をうたれた。

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●『雲のむこう、約束の場所

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物理的な距離と心的な距離を並列に語ることで、喪失の抽象と具体の両面を表現した秀作。距離が離れることで心の距離が縮まるという範型ではなく、距離を縮めることで心の距離が離れるという、含みのある関係の主題をも展開させた物語である。新海作品の鍵である喪失の主題を考えるうえで重要な位置づけとなる作品。

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●『パルフェ』(2016)

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同じものを大切にするという物語であり、自分と相手の大切なものは本当に同じなのかという葛藤を、手を変え品を変え最後まで描ききった作品である。カトレア√について言えば、自分の自己同一性を保証するキュリオでの仕事が、自分の大切なものである仁との関係を阻害するという、あまりにも切ない局面にはさすがに共振してしまう。また里伽子√では日本の家社会の闇が間接的に扱われている。家族と恋人の格の差という伝統的問題の狭間で、必死に声を押し殺す里伽子の自己犠牲が切なく語られる。各ヒロインの√それぞれが丁寧にあたたかく描かれている不朽の名作。

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●『遥かに仰ぎ、麗しの』(2016)

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何度でも言うが、梓乃√という奇蹟。症状だけをとり除くのではなく、原因となった自己と環境の関係改善に重きを置く――これは臨床心理の基本でもある――静かな再生の物語である。メランコリーの症状を呈する梓乃が、他者と関係するなかで次第に主体性を獲得し、新たな自己同一性を見出すまでのやさしい物語。慣習的な物語ながら、自律して生きる難しさを切実に語りかけてくる物語であった。

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●『夏空のペルセウス

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心と身体の受けいれを厳密に区別し、ノベルゲームお約束の性行為=心の受容という定式を転覆する物語。他者の身体感覚を共有できないという決定的な問題を無効化し、心身の関係を改めて見つめ直そうとした本作は、実はあまり例を見ない興味深い主題を複数提示してくれた。この点については身体の諸問題に関する記事でも改めて補足しておいた。

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●『紙の上の魔法使い』(2016)

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西欧の小説形式をほぼすべて盛りこんだ挑戦的手法や、キリスト教的倫理観に根差した“知る”という罪の主題、人間の主体性についての深い洞察と、挙げれば切りがないほど潤沢な問題提起をしてくれた本作。自己と自己との差異に着目したうえで、不連続な自己を唯一無二の自分として受けとめる実践が積極的に描かれた。たたみかけるように提示される精神病理学的主題の数々には思わずため息が出てしまったほど。間違いなく今年一年を通じての最高傑作であった。

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●『最果てのイマ』(試論)

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過去の記憶と過去そのものの差異を問題化した興味深い作品のひとつ。共通感覚のゆれが物語外のプレイヤーにまで及び、過去を、あるいは同じ時間を共有するとはどういうことなのかを切実に問う名作。実は戦争篇までプレイしていないというのはここだけの話。

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●『運命予報をお知らせします』(2016)

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弁証法的物語構造を次々と崩して進む雪崩のような物語。ノベルゲームの慣習をすべてうち崩したあとに、なぜかちゃんとノベルゲームお約束の結末にたどりついてしまうという、矛盾を孕んだ試みは皮肉たっぷりで面白い。『紙の上の魔法使い』に連なる問題提起がふんだんに盛りこまれている一方で、本作では解決されない問題も複数あり、『紙まほ』への踏み台に見えてしまう部分も多かった。

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●『キラ☆キラ』(2016)

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エロゲ界における瀬戸口最後の作品にして瀬戸口入門にふさわしい一作。物語としての面白さや人物の魅力については言を俟たないが、主題の目新しさはなく、あくまでこれまでの総括という感がある。『CARNIVAL』で提示された“正しすぎる”正しさという倫理的主題を改めて一般向けに語りなおした秀作と言えるだろう。

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●『LOVESICK PUPPIES』

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自分や他者とどう向きあうかという日常的主題に、様々な人間の様々な実践を通じて、具体的に踏みこんでゆく作品。過去を現在に生きるものとして主体的に捉えながら、とり返しのつかないものとしてではなく、別の形に変えてゆける未来として受けとめる、そんな姿勢が描かれた前向きな物語でもあった。ほのぼのとした良作でありながらも、言葉のもつ力をテクストの端々から感じとることのできる秀作であり、私のなかでは特別な位置を占める名作でもある。

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●付記:今年のふり返りと来年の見通し

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本記事はあくまで“レビュー”のふり返りなので、プレイ時期はかなり前のものも混ざっております。今年一年でプレイしたノベルゲームTOP3は『パルフェ』、『かにしの』、『紙の上の魔法使い』。今年はノベル・ゲームに限らずよい作品にたくさん出逢えた一年でした。下半期に出逢ったアニメ・漫画については『ウツボラ』が頭ひとつ抜きでています。参考までに。

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自分の読みをまとめておく目的で再開した本サイトは、訪問者への配慮をまったく行っておりません。にもかかわらず、特にツイッターを通じて、多くの読者から感想などいただけたのはとてもうれしい経験でした。ひとりで読んでひとりで書いていたころよりもずっと楽しい。ありがとうございます。11月頃からアホみたいにカウンターがまわりはじめたのでびびってコメント欄を承認制にしました。あしからず。

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また驚くべきことに、ここでとりあげたとあるルートのライターさんから連絡があり、直接メッセージのやりとりをするという幸運にもめぐまれました。シナリオの制作などについて、かなり濃い話を交わすことができたのはうれしい偶然でしたが、外に出せない話ばかりなのでこれについてはコメントできません(笑)。

来年からはノベルゲームのプレイ時間があまりとれなくなることもあり、ふたたび文学の記事なども多く盛りこむつもりですが、一週間に一度の更新ペースは維持したい。ノベルゲームおすすめの記事や、仕事で企画したアニメ概論なども、そのうち記事にして掲載するつもりです。いろいろと企画を立てながら、次年度もあくまで自分本位に進めて参りたいと思います。

⇒2016年上半期レビューまとめ(アニメ・ノベルゲーム) - ワザリング・ハイツ -annex-