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ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『見上げてごらん、夜空の星を』を読む(感想・レビュー)

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ふたご座流星群に合わせてプレイしはじめた本作。久々に穏やかな良作に浸った気がする。どう読むとかそういう問題じゃない普通の物語なので、あらすじなど追いかけながら、いつもとはちがった心持ちで紹介していきたい。沙夜isゴッド。

 

●空白の三年間:沙夜√

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あっくんという呼び名が沙夜だけのものであったように、三人でいながらも、三人関係と二人関係は截然と区別され、当時から別物として捉えられていたことが窺える。“昔の星空をとり戻す”ための計画が象徴するのは、昔の関係をとり戻すというひかりの内なる想いで、さとい沙夜はすぐそのことに気がついてしまう。変化しながら関係を受けいれ発展させてゆく沙夜に対し、ひかりは過去をたぐり寄せようとし、関係性についての構え方が異なるというところが印象的。過去にひかりと暁斗の関係を壊してしまったと呵責する沙夜は、ふたりの関係を再生するため、自分と暁斗の恋人関係を白紙に戻そうと心に決める。

もともと沙夜に星を教えたのは暁斗とひかりなのであり、沙夜にとって星はふたりから決して切り離せないものであった。だからこそころなは、なぜ星を見るのか、と沙夜に改めて問うている。それは、ひかりが転校したのち暁斗とも疎遠になってしまった約三年間、たったひとりで観測を続けた沙夜自身の自問でもあった。実はこの孤独な数年間は、沙夜が本当の意味で天文と向きあった実りある数年であり、ここでつけた記録がのちに、三人の関係ないし暁斗との関係を改めて結びなおす大事な鍵となった。苦しみながら自分自身と向きあった数年間だからこそ、暁斗との(あるいはひかりとの)関係が袋小路に達したときに、沙夜が歩を進める助けとなったのである。

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「あっくんにとって星は、いつだってひかりと一緒にある」と沙夜は述べている。暁斗にとって星は常に三人関係のなかに埋めこまれたものであった。しかし新たに関係を結びなおした沙夜と暁斗のふたりは、三人で、あるいはむつらぼしの会のみなで共有する星空と、ふたりだけの思い出を育む星空とが両立しうるものであることを、イベントを通じて再確認する。自分はなぜ星を見るのかと自問してきた沙夜は、むつらぼしの会の活動を通じて摑みとった、星の魅力をほかのひとに伝えたいという、新たな星との関わり方を自分の内で育てたのち、教員としてそれを果たす未来を手に入れる。

沙夜が自分と星との関係を新たに結びなおすことで、三人の星空をとり戻すだけでなく、自分と暁斗の関係をもうち立てることができたという、これは再生と進展の織りなすなじみ深い物語であった。このあたりはかなり『たまゆら』にも似ており、非常に私好みの物語だったと言える。

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三人で書きとめた惑星観測ノートもそうだし、空白の三年間に沙夜がつけ続けたノートも然り、ひとつの分野に深く入りこんで長い年月を過ごすことは、ひとが生きてゆくうえで最も大切な経験のひとつだと私は思う。惑星観測ノートもすばらしいと思ったが、沙夜の観測記録には特別な感慨を覚えた。最愛の友人と離ればなれになったのち、ひとりきりで宙を見上げつづけたという沙夜の孤独な数年は、彼女にとって、本当に大切なものとひとり向きあい続けた数年でもある。沙夜の逸話と彼女のノートは、なにを大切にすべきかではなく、大切にしたいものとどう向きあうべきかを、静かに語りかけてくるような印象深いものであった。彼女の孤独な三年こそが、天ノ川沙夜という人間のすべてを物語っている。

 

●付記

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相変わらずこういう良作が好きみたい。PULLTOPのテキストとの相性がよいこととも相俟って、かなり楽しんでプレイできた本作である。ひかり√に比べて沙夜√は、あくまで三人の関係性に主眼を置いた物語となっており、プロジェクト・スターライトの成功もささやかでとてもよい。関係は差異によって定義されるため、別の関係が出てきてはじめて現行の関係について省みる必要性が出てくる。過去の関係性が現在の関係によって再定義される点についても、幼なじみの定番の主題ではあるものの、丁寧に描出してくれていたように思う。

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※星と言えば私にとっては野尻抱影であり、きっと作中であっくんが読んでいた星の本は野尻抱影にちがいない。そういうわけでここに記事を貼っておこうと思う。

sengchang.hatenadiary.com