ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

『Crescendo』を読む(感想・レビュー)

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もはや普通の小説である。アニメその他にある軽快で現実離れした会話のかけあいは一切ない。いまこういう筆致で書いているのはInnocent Greyのライターぐらいのものではないだろうか・・・・・・などと感慨にふけった。

血の繋がりがないとわかった途端に姉を犯す頭のいかれた涼よりもっと頭がいかれていたのは犯されたあやめのほうだった。いろいろ言いたいことはあるが、姉弟の恋愛を書きながらも、ところどころの言葉は、子供が大人になる過程で突きつけられる現実をなぞったものでもあり、なかなか興味深いとは言える。

 

●もらい子設定

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すでにさらしてしまったが、涼はあやめの家族と血が繫がっておらず、その事実を知ってひどくショックを受けてしまう。しかし血縁関係にないからといって即座にレッツ背徳とはならない。あやめと涼の葛藤はアナザーストーリーでもえぐるように深く掘りさげられており、このあたりは真に迫るConversation novelsと言えるものであった。

もらい子妄想を現実化する形で描くエロゲやアニメは多く、親の問題を複雑化ないし無効化し、近親相姦ものを描くための物語装置とする。反道徳を道徳的に書く試みだが、根はもっと深い気がする。ここに感情移入できるということは、こうした物語に共感するプレイヤーがもらい子妄想を希求する神経症の傾向がある、と言ったらたぶん怒られるけれど、あながち的外れというわけでもないだろう。

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もらい子妄想というのは、親との関係において問題が生じた際、自分が親と血の繫がりはないと思いこむことで、問題を根源から切り離してしまおうとする、いわば関係妄想の一種である。エロゲやアニメの定番である「両親の海外出張や事故死」は、こうしたもらい子妄想の“妄想”のほうを現実として採用した、物語に都合のよい設定例だと言える。読者が自分と両親の問題から眼をそらすためにこうした物語を通じてもらい子妄想を実現させているとまで言うつもりはない。しかし両親不在の設定はもはやループものと同じくらい安易な装置となっており、家族を書かない物語をあまり信用しない抗体が、少なくとも私にはできてしまった。

 

●アナザーストーリー(あやめ)

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この作品、とにかくあやめのだめ女ぶりが著しく眼につき、使い古された典型的な堕ちる女の人物像にやや胸焼けがした。単に私が見飽きたというだけの話で、実際にはよく描けていると思うから、そこのところは問題ない。そういうの大好物なひとは安心して突進してほしい。

自分が面白いと思った視点からこの種のシナリオを眺めるならば、以前に書いた『なついろレシピ』の“役割変化”と成長の待遇関係がここにも見えたとは言ってよいだろう。しかし『なついろ』とは対照的に、こちらは反比例である。涼を経済的に支援し、自分なしでは生きられないと感じさせることで、自分に涼を結びつけておこうとしてきたあやめは、自立した大人になるという当然訪れる涼の変化についてゆくことができない。姉という役割に自身の唯一の存在意義を感じており、彼の自立に際して、自分がどんな立場でいれば彼と繫がり続けることができるのかがあやめにはわからない。自分を他者に仮託するな、という黒須太一の言葉を思いだすほど、すべての意義を弟の涼に求めるあやめの思考は、男女関係の闇をよく捉えていた。このあたりの関係は『罪ノ光ランデヴー』のあいルートでもよく描かれていた。

 

●付記

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プレイしたのと記事を書いたのが遠い昔でもはやよく憶えていない。が、先に書いたように、関係の書き方が非常にうまく、別に姉うんぬんに興味がなくても十分楽しめるのではないかと思う。

あやめアナザーについて、このリアルさと重さ、どこかで体験した覚えが・・・・・・と思ったら『WHITE ALBUM 2』であった。面白いしよく書けていたが、自分の必要とするリアルではなかったため、おそらくここでとりあげることはまずないと思う。

『Crescendo』に話を戻すと、本作も同種のリアルがあって、これをここでうまく説明するのはやや難しいのだけれど、林真理子宮部みゆきの書くリアル、と言えば少しは伝わるだろうか*。現実を知るための小説、と東浩紀が述べていた、そういう種類の作品がもつリアルのことである。それでも本作を紹介したのは無論それだけの作品ではなかったからなのだけれど。*一応断っておくが、私は彼女たちは本物の職業作家であると思っており、自分は必要としないけれど、世の中には絶対に必要な作家たちであると思っている。

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