ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

低・中評価のノベルゲームを読む

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世間の評価はたいして高くないものの、個人的に思入れのあるノベルゲームをまとめて紹介。世の中の平均的評価と自分の評価が一致しないのはどの分野でも定番である。埋もれた名作とまではさすがに言うつもりはないけれど、気が向いたら手にとってみてほしい、陰に隠れた良作たちを短く紹介してみたい。一本レビューを書くにはやや力が足りなかった作品たちをなんとか紹介できないかと考えた結果思いついた記事でもある。すでに記事があるものについては、紹介後にリンクを貼ったので詳しくはそちらを参照。

 

●『なついろレシピ』

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飯テロレシピ。PULLTOP制作陣が自分たちを癒やすためにつくったであろう、しかし地味に人気のある良作。私の大好きな一作でもある。音楽、CG、テキストともに文句なく整っており、役割変化の主題を突きつめた、やさしい成長物語となっている。盛りあがりに欠けるというより、劇的な盛りあがりでは描くことのできない、しなやかな心の交流を描いた良作である。PULLTOPのよいところが全篇を通じていきいきと感じられるような作品であると思う。

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●『霞外籠逗留記』

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「かげろうとうりゅうき」と読むらしい。ライターは『神樹の館』の希氏。ゆえに同じ“館もの”であり、共通点も非常に多く、やはり旅籠という建物が様々な比喩として物語のなかで機能する。たとえば、旅籠の地図と建物の関係は、信仰する主体がいなくなったために神の姿が見えなくなったと『神樹の館』で竜胆がこぼした言葉ときれいに響きあう。『AIR』『腐り姫』と同じく、本作も血筋に縛られる慣習的な家の物語である。この主題については確かに本作よりも『神樹の館』のほうが深く語りだしていると言わざるをえない。しかしながら、家の宿命を具体化した「ニゴリ」という存在や、形而上学的にではなく具体的な形で彼らとの確執を描ききった点は注目に値する。泉鏡花を意識した冗長な語り口も愉しい意欲作である。

 

●『世界ノ全テ

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智子ルート以外の出来の悪さがあまりにも著しく、総合的評価が基準点に達していないと言われる。しかし、よく他の読者も口にするが、終盤にいたるまで緊張感のあるすばらしいテキストであったならば、あるいは随所に見所のある作品ならば、結末や全体の完成度は措いて評価してもよいのではないか、と私自身も思っている。本作もそんな一作であった。作中人物の関西弁や、すばらしくテンポのよい会話、音楽への造詣と、共通ルートの核となる本筋の語りは眼をみはるものがある。無論、智子ルートの自己同一性の問題もかなり奥深くて感じいるものがあるし、ひき込まれること請合いの非常に魅力ある物語であった。高熱を出して仕事を休みながらも時間も睡眠も忘れてプレイしたのがとても懐かしい(笑)。

 

●『少女マイノリティ』

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『少女アクティビティ』の記事でも書いたが、『少女マイノリティ』もまた、体の関係にいたる動機がかなり切実なものであった。短い物語ながらも、服飾に関する専門的談話と心の抑圧の主題を扱い、きれいにまとめた短篇と言ってよいかと思う。国宝級のCGもすばらしく、音楽も一聞の価値あり。フルプライスの作品ではいろいろな点から楽しめる作品は多いものの、この値段とボリュームでそれができるというのは、『ぼくのたいせつなもの』や「美少女万華鏡」シリーズと併せて、ほかにあまりないのではないか。

 

●『LOVESICK PUPPIES』

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量産化された日常的物語である一方、抜群に読ませる秀逸なテキストと一風変わった学園のシステム、擬似家族としての共同生活と、長い共通ルートながらも読者を飽きさせない一作である。大人から学んだ他者との在り方を、子供が子供だけの擬似家族を通して実践し、自分の心身になじませてゆく過程が丁寧に描かれている。主人公崇村虎太郎は全方位に隙がない比類の人格者であるが、眼の前で起こる人間関係の典型的なすれちがいを決しておろそかにせず、ひとつひとつ真摯に向きあう態度が印象的であった。良作の域を出ない一方、結末だけが物語の美点でないことを思い起こさせてくれる、光る部分の多い作品。私にとってはいろいろと思い出深い特別な一作である。

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●『天色*アイルノーツ

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自分がシナリオゲーマーだと意識する前に手にとった、私のプレイした数少ないゆず作品のうちのひとつ。なおかつとても好きな作品だとあえて言っておきたい。深く読む要素など皆無だが、テキストは普通に面白いし、システムは完璧、音楽もすてき、キャラクターもかわいい、CGはきれいと、エロゲの大切な部分をきちんと押さえてくるゆずはすごい。また透の過去の悔いをシャーリーが救済するくだりは素直によかったと言える。シナリオもわりあい正当な手続きを踏んでくるあたり、安心して手にとれる(これから手にとることがあるかはわからないが)メーカーだと私自身は思っている。

 

●『明日の君と逢うために

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読者が物語の全体像や主題を十分に理解しようとしなかったのでは?(Purpleだからと高をくくって笑)と思うほど評価の低い作品。境界を踏みこえる主題について、リアリズムに立脚しながら現実世界からの観点でもってここまできれいに描いた物語は稀である、と強く推したい。のちに出た傑作『アマツツミ』との主題の響きあいも然ることながら、世界中の文学がこれまで描きつづけてきた“踏みこえる”主題について、好悪それぞれのルートを敷き、平等に描く複眼的な視点が貫かれるあたりは、ライターの真摯な姿勢を感じる。自己の問題に深く分けいった、再評価を待ちたい秀作である。

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●『ソレヨリノ前奏詩』

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永遠や真響も好きだったが、はるかルートが本当に奇蹟。短いながらも美しい物語である。最後の終とはるかの対話は、私のエロゲプレイ史上、最もすばらしい心の対話であり、何度読みなおしたかわからないほど。ここ数年のminoriは自己の主題をかなり丹念に描きつづけており、それこそ世の中のいろいろな批判や低評価が気にならないほど、私自身はとても楽しんでプレイしつづけている。

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●『神樹の館

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『明日君』同様、読者のリテラシーが強く求められる、味わい深い一作。記事でも詳しく書いた通り、日本の慣習的な“家”文化の表象が随所に見られ、よくぞここまで入組んだ主題をまとめたものだ、と思わずため息が出てしまう。私たちのうちに内面化された「うち」と「そと」の風習を寓意化し、家屋や森、神の在り方といった、古来の価値を形作った他の様々な文化を織りまぜ、丹念に語りだした美しい物語である。伝奇ものとしてはこれを措いてほかにない、と言いたくなるほどの、驚くべき完成度を誇る傑作である。

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●付記

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いつもよりややゆるめな感じでレビューを書いて並べてみた。さすがにゲームとして欠陥がありすぎる『最終試験くじら』はおすすめできないため、リストから泣くなく外した、というのはここだけの話。興味のあるひとは記事があるのでそちらをぜひどうぞ。

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また、根強い人気のある『向日葵の教会と長い夏休み』や、わかっているひとたちがきちんと名作判定している『紙の上の魔法使い』『CARNIVAL』なども、意図的にリストからはずしてあります。

エロゲ界で名作傑作と叫ばれているもの以外でも、自分にとって特別な作品というのはたくさんあって、そういった作品も今後増えていくととてもうれしい。フォロワーさんともいろいろと情報交換をしながら、特に古い作品をあさりつつ、自分だけの良作をこれからも探してゆきたいと思う。

⇒ノベルゲームの精神病理を読む - ワザリング・ハイツ -annex-

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