ワザリング・ハイツ -annex-

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 『らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~』(感想・レビュー)

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誰もが認めるエロゲーマーのバイブル『らくえん』をプレイ。なんだこのゲーム最高かよ。やろうかどうか遅疑逡巡しているひとがいるならぜひいますぐにでも手にとるべき作品である。とにかく面白い。そのひと言。思考を働かせて愉しむゲームではないため、今回は紹介記事の例に倣って、いくつかのポイントから気ままに所感をまとめていきたいと思う。いつもとは少しちがった形のゆるいレビュー。堕落する準備はOK?

 

●「らくえん」とは

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私がプレイを決意したのは体験版がよかったから。本篇とは別もののとても短いスキットなのだが、双子の妹たちが織りなす絶妙なやりとりにげらげらと笑い転げて、絶対にやろうと心に決めた。本篇もまた、その期待を何倍も上回るような、キャラクターの魅力が十二分に発揮される当意即妙なやりとりが全篇にわたってくり広げられるため、最後まで息つく暇もないほどである。すべてのキャラクターに血が通っているすばらしい出来栄え。そこだけに期待してプレイしてもまったく後悔しないと思う。

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本作の掲げる「らくえん」とは、私たちの住んでいるエロゲ界という楽園のことであり、ムーナスという彼らの仕事場であり、オタク文化という界隈であり、主人公が構築する人間関係全体であり、男女の二人関係でもある。しかしやはり、『らくえん』はエロゲについてのエロゲであるため、この“楽園”で遊ぶプレイヤーを楽しませる仕掛けが、それこそ見渡す限りありとあらゆる場面に散りばめられていた。

本作では本当に細かく、エロゲ製作の舞台裏や定番の展開をなぞってくれるので、エロゲーマーたちはそれぞれの作品経験や購入経験を思いだしつつ物語を楽しむことができる。そして火を噴く現場で制作を続ける彼らの姿を見ながら、ユーザーと製作とが一体になって業界を盛りあげていることに気づき、最終的には彼らの物語に私たち自身も一枚噛んでいることが明らかになる――これが作品としてのちょっとした仕掛けというか、味つけの部分であり、私たちを笑顔にしてくれるうれしい展開でもあった。そこは最後までプレイしてみてのお楽しみ、といったところ。

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らくえん」とはなにかと問いかけながらプレイすると、物語のなかによく知っている「らくえん」が姿を現し、私たちはすでにその場所へ足を踏み入れていたことを知るのである。これは私たちが「らくえん」を探すための物語ではなく、私たちのいる場所が「らくえん」であることを確認し、その前提を共有するための物語であった。私たちのいるこの場所は本当に楽園なのか、と疑義を抱いて世の中の常識に怯むのではなく、世の正しさを笑い飛ばして“堕ちつづける”彼らの潔さは見事なものである。

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本作がパロディやアイロニーをふんだんに盛りこんだメタフィクションである点はさておき。「堕落する準備はOK?」という科白から、“堕落”とはなんだろう、と考えたひとも多かったと思う。一浪して上京したうえ、勉強せずにエロゲをつくり、二浪する、というのは堕落した生活なのだろうか。きちんとした生活をしながらも、毎日なんのためかわからない仕事をしながら同じことをくり返す生活は堕落ではないのか。『らくえん』で最初に「堕落」という言葉を使うのは可憐であるが、それ以降に主人公やほかのヒロインたちが口にする際も然り、「堕落」という言葉は常に前向きな姿勢を表す言葉として用いられている。

好きなことを追求する生き方のどこが悪いのか。場合によっては、それは堕落した生活姿勢となるかもしれないが、当人たちにとっては必要不可欠な生の形であり、だからこそ彼らの堕落は「らくえん」たりうるのである。「堕落する準備はOK?」という問いかけは、世間の考える「堕落」した生活を謳歌してやろうじゃないか、というゆがんだ生き方の受容として前向きに提示されていた。これを否定するエロゲーマーはきっとどこにもいないにちがいない。

 

●付記

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最高にばかで面白いゲームだった。一気にかけ抜けたと言ってよい。なるほど確かにこれをやらずしてエロゲーマーを名乗るのは恐れ多い、と思ってしまう作品である。2004年の作品であるが、13年経ってプレイした私が当時のプレイヤーたちと同じ所感を抱くあたり、やはり色褪せない魅力ある作品なのだろうと思う。

また『らくえん』には、みかの所属するブランド「ミニミ」がつくった作中作品『ぼくのたいせつなもの』が同梱されている。覚えのあるカットが出てきたり、会話のなかで何度も話題になるものだから、以前プレイしたときのことを思いだしてとても感慨深い気持ちになった。3時間ほどでできる短い作品ながらも、自分のなかでは5本の指に入る傑作であり、こちらも併せてプレイすることを強くおすすめしたい。現在は単体でDL版も売られているので、手軽に手に入れられるところも非常にありがたい。

sengchang.hatenadiary.com

なんと形容してよいのかわからないが、こういった作品はいまや少なくなってきたなあ、という気はする。シナリオゲーマーでありながらも、たまにこんな作品を純粋に楽しんでプレイしたくなる、というのもまた本音であり、丁寧にかつ勢いでつくられたユーモアのある作品も捨てがたいものである。よくよく考えると、勢いのあるギャグ作品をプレイしたのは『フレラバ』以来かもしれない。時間に余裕がないため、なかなかこうした作品にまで手が出ないのも事実であるが、おりにふれてプレイしたいと今回改めて思いなおした次第である。

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