ワザリング・ハイツ -annex-

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『罪ノ光ランデヴー』を読む 補遺

f:id:SengChang:20180101230332p:plainいつかじっくりやり直そうと思っていたルートである。過去に一度レビューを書いたが、時間が経ったいま改めて読み返してみると、自己の主題に関して興味深い点がいくつか見つかった。過去の自分と優人との関係を改めて捉えなおした風香が、現在の自分と優人との関係をどう定義づけるのかが、このルートの大きな問題である。自分を捨てることで新たに自分をうち立てようとする、死して生まれる自己の主題が、風香のゆがんだ自己確立の過程を通じて描出される。

 

●断絶した自己の主題

f:id:SengChang:20180101230330p:plain優人の姉の栞本人でありながらも、過去の罪悪感から、栞の友人を騙って風香は優人の様子を見にやってきた。「椿風香、それ以外でもそれ以下でもない」という彼女の言葉は、現在の自分を栞から切りはなして新しい自己に据え、優人とふたたび向きあう――肉親でもなく他人でもなく“椿風香”として――彼女の決意を感じさせる。新しい自己をまとうことで過去の自分と現在の自分との断絶をつくりだし、新たな関係をうちだそうとする風香であったが、彼女の行動そのものは過去の優人との日々をなぞるようなものであり、自らつくりだした断絶の隙間へ恣意的に過去をすりこむような、彼女の矛盾した行動が序盤から眼をひく。

環境がゆえに自己の断絶を経験せざるをえなかったのが『CARNIVAL』の学や『紙の上の魔法使い』の妃といった人物であったが、その一方で故意に自己の断絶をつくりだす物語はあまり例を見ない――あえて挙げるならば、代理体験を通じて過去の自己を対象化して捉えなおそうとした『Narcissu -SIDE 2nd-』の姫子や、初対面のふりをして主人公と距離を詰めた『ソレヨリノ前奏詩』の永遠などであろうか。いずれにせよ、自ら積極的に過去の自己と現在の自己とを切りはなし、意識的に他者との関係改変を行い自己を定義しなおす実践が、風香の“罪”に根差した切実なものであったことは確かである。

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f:id:SengChang:20180101230335p:plain現在の自己と過去の自己とを包摂することがすなわち、栞という名前を捨て、風香として生きる彼女の決意そのものであり、断絶した自己は見事に統合されてゆく。新たな自己の獲得過程は、自己を不連続の連続として柔軟に受けとめ、栞であった自分もいまの風香としての自分も、すべてが自分自身であると認める過程にほかならない。風香という名前は、彼女が優人と新たに“関係した”証であり、あくまで現在の自分と優人との関係に立脚しながらも、過去をやさしく含んだ生き方をうち立ててゆくのであった。

『明日の君と逢うために』では、過去の明日香が次第にうすれ、現在の明日香が前景化する形で自己の統合が実現されたが、本作ではどちらか一方を切り捨てることなく、両者をひとつの自己として受けいれるにいたった。そして弟と関係をもった罪を彼女は “風香”という名前とともに生涯背負って生きることを選びとったのである。“風香”という名前をもって生きる彼女の選択は、外向きにあつらえた偽の社会的自己でありながら、姉弟の禁忌を望んで犯し、姉という役割から自らを解き放った、罪深い自立的自己の獲得をも意味する選択なのであった。

 

●付記

f:id:SengChang:20180101230331p:plainminori作品は総じて、自己同一性の主題を手を変え品を変え描いてきたわけだが、このルートは特に、断絶した自己の主題や、矛盾した性質を併せもつ自己の特徴的な一面、あるいは自己を他者化することによる代理体験――物語体験と言いかえてもよい――の主題といった諸々の問題を併置して語った興味深い物語であった。多くの物語が同じことを言葉を変えて語っているが、たとえ結果的な到達点が同じであっても、その過程において独自の言葉で様々な問題提起がなされていることに意味がある。その過程に読者それぞれの必要な意義を見出すのが物語の正しい読み方であろう。

今年は過去にプレイした作品の読みなおしも積極的にやっていきたい。CGの読みなおしだけでなく、物語全体についてもう一度捉えなおしながら、現在の問題意識から改めて作品を見たときに、新たな主題を投げかけてきてくれる作品を多く堀りだしてみたい。そのひとつとして、いまも印象に残っていた風香ルートをこのたびとりあげてみた次第である。

⇒『罪ノ光ランデヴー』椿風香ルートを読む(感想・レビュー) - ワザリング・ハイツ -annex-

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