ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

私のノベルゲーム10選

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来年度からふたたび戦場に赴く自身への手向けとして、これまでプレイしたノベルゲームから甲乙つけがたい10作品を選び、褒めちぎっただけの記事。一人称的な思い出語りで所感をたれ流してゆきます。ゲーマーの常識である思い出補正満載。ここ数年のノベルゲームのレビューをまとめる目的もあり、作品紹介のあとには各記事へのリンクを貼ってあります。なお掲載順序は適当で、順位とは関係がありません。あしからず。

 

ぼくのたいせつなもの

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『らくえん』をクリアするとできる付随作品でありながらも、その信じがたいほどの完成度から、いまもなお語り継がれる隠れた傑作である。自己の他有化/他者の自有化を中心に、医療の発達による生命倫理の問題をいち早くとりあげ、真摯に描いた物語である。むろん、そういった物理的な意味での他者の受けいれ――文字通り他者の臓器を受けいれること――だけでなく、相手の心をどう受けいれてゆくかという、ノベルゲームの典型的主題も十二分に描出される。全体として心苦しい物語でありながらも、近い将来に起こりうる新たな“生き方”が提示された作品と言ってよいであろう。3時間ほどの短篇であり、いまは単体でDLもできるため、長篇のあいだに挟んでプレイすることをおすすめしておきたい。*また先日ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロNever Let Me Go(『わたしを離さないで』)で似た主題を書いていたのはとても興味深いと感じた。

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 ●腐り姫

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音楽、CG、テキスト、物語、すべてにおいて一級品だった忘れられない一作。私たちが日々感じている閉塞的な社会や文化の息苦しさが、あくまで比喩的にあらわされた物語であったと思う。そんな内側に閉じた社会のなかで、時間をかけて腐ってゆく人々の負を喰らい、彼らの生きたままの死を象徴する存在として、腐り姫という“神”が本作の主役となった。現代に残る家社会の闇を寓意化し、私たちの生がはらむ矛盾を突きつめた傑作である。近親相姦や心中といった問題についてもまた、よくある単調な帰結に収束するのではなく、ループものの特性が信じがたい方法で生きており、特筆すべき点の多い作品であったと言える。

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ナルキッソスシリーズ

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個々の作品ではなく、あえてシリーズでの紹介。死を意識してはじめて生の実感を得たからこそ、どのように死を迎えるかではなく、死ぬまでをどう生きるかに主眼が置かれる。不治の病にまつわるクリシェをうまく用いながら、人物それぞれの生を描き、同じ答えにたどりつく美しい作品群である。シリーズとしてとてもよいのは、「去る者」の死から学んだ「残された者」が、「去る者」の残した想いを、別のだれかに語り伝えてゆくところである。「ナルキッソス」は死を美しく描いた物語ではなく、死から日常を映し見て自身の生をあらため、前に進む人々を描いた物語であった。『ナルキ』、小説版『ナルキ』、『ナルキ2』、『ナルキスミレ』、『ナルキ0』と読了したが、私にとってはどれも非常に思い出深い作品であり、『ナルキ0』のレビューでは、個々の主題についてふれつつシリーズ全体の総括を述べた。

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●アマツツミ

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言葉による表現ないしコミュニケーションを扱いながら、示唆に富む様々な洞察を示してくれた、文字通り“言葉”についての魂の物語。漢字やかなの字義に潜む日本語の意味のゆれや、ひとつの文化圏のなかでの言語変化の歴史など、言葉についてあらゆる角度から眺めなおした、ノベルゲーム界隈ではほかに類を見ない作品である。言葉と命が時に等価となりうることを教えてくれる、私にとっては特別な一作。また、日本における神と人間の歴史を、民俗や神話を介することなくきれいに語った作品は、ノベルゲームに限らずとても貴重だとあらためて言っておきたい。

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●CARNIVAL

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私の記念すべき初エロゲ。処女作がこれでなかったら、もしかするとノベルゲームをここまでプレイしていなかったかもしれない。現代の狂気は私たちみなが抱えているものであり、それはまさに本作で描かれたような、自己が静かに崩壊してゆく狂気なのではないだろうか。世間に掲げられた“常識”からはずれた者は、ゆがんだ価値観をよすがとして自己をうち立てるしかなく、それをひとは時に狂気と呼ぶことがある。『CARNIVAL』で描かれたのは、そのようにして常識の外で音もなく崩れてゆく子供たちの姿であった。空転する生を生きながら、ぜったいに手の届かない“幸福”という幻を目指し、走りつづけようとする姿は、すぐ先にゆき詰まった未来が見えるにもかかわらず、とても美しく感じられる。

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神樹の館

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0年代の作品のなかで1本選ぶとすれば、私は間違いなくこれを選ぶ。伝奇作品に分類できる伝承を扱った作品であるが、野本寛一の言う「環境民俗学」ないし「信仰環境論」にも足を踏込んだ、日本の“信仰”についての物語でもあった。私たちの文化に根差した「奥の思想」に立脚し、建物の奥に――あるいは森の奥に――尊いものが据えられ、その神格の栄華と衰退をたどった絵巻物である。日本の神話や伝承の多くは、古来の民俗を映しだしたものであるが、建築物や祭祀といった眼に見えるもののうちに、信仰や思想といった眼に見えないものが織込まれ、後世に伝えられてゆくさまが巧みに表現されていた。現代の日本人が距離を置く神や信仰というものが、私たちの生活から生まれたものにほかならず、とても身近に住まうものであることを思いださせてくれる。こんな作品は世界中どこを探してもないであろう。

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AIR

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本格的に民俗学を紐解き、熊野の地を踏むきっかけをつくってくれた作品でもある。私が長く関心を向けてきた精神病理学の主題に加え、民俗の分野を大きくとりあげた作品であり、神話や民間伝承についての挿話が随所で展開された。三重・和歌山を覆う熊野の民俗を多分に映しだし、烏を霊鳥視する文化や滅罪信仰、浄土信仰など、熊野の文化が随所で生きた、民俗についての物語でもある。さらにKey特有の家族の主題については言を俟たないが、著しく内側に閉じた日本の家の特質が、累々と悲劇をもたらす「うちの文化」の矛盾を突き詰めており、覆すことのできない大きな力と主体的自己との軋轢が、本作の大きな特徴のひとつであったと言えるのではないか。その根底にあるのは、「家」という“物語”とどう付きあってゆくのかという、物語文化への問いかけでもあったように思う。

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●紙の上の魔法使い

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ここ数年で発売されたノベルゲームのなかで私が最も高く評価している作品。布石を狡猾に利用した語りの妙も然ることながら、西洋小説のありとあらゆる形式を利用した、類まれな技巧的作品でもあり、その点から省みると大きく見え方の変わる作品でもあろう。物語としては、人間の歴史的/社会的自己の主題を寓意的に描いてみせた、実存の本質を問いかける伝統的物語であった。自分という存在の根底を覆されてもなお、「いまここ」の自分自身を自己の基幹と捉えて、他者と関係しつづける「行為的自己」が最後まで描かれる。運命を徹底的に否定し、選択の積みかさねがそのひとの現在をつくる必然を――これは『水葬銀貨のイストリア』『運命予報をお知らせします』でも描かれた主題だが――追求している。本作のヒロインのひとりである月社妃は、ノベルゲーム作品において、私が最も魅力を感じたヒロインでもある。

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CROSS†CHANNEL

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生きるためにゆがまざるをえなかった子供たちが、ゆがんだままでまっすぐに生きようとする物語。作品構成を知ったうえでプレイした私でも、彼らのひとつひとつの言動に心をふるわせ、大きな衝撃を受けた物語であった。太一の言う「美しさを強要する世界」、すなわち正しすぎる世の中と相容れなかった彼らが、互いの心の弱さを様々な形で受けとめながら、懸命に生きようとするさまはやはり心をうつ。他者と真正面から関わり心を通わせた先にあるのは、文字通りの孤独な生であり、その悲しい現実は私たちの生のリアルをよくあらわしたものでもあろう。年月が経ったいまでも忘れることのできない特別な一作である。

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CLANNAD

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いまなお決して色あせない、様々な家族の形を描いた不朽の名作である。keyが描き続けてきた擬似家族の主題はもとより、子供が大人に成長して自分の家庭をもち、かつての崩壊した子供時代の家族を捉え返すさまなど、年齢や立場によって見える景色のちがう家族の主題を、それぞれの角度から捉えて描いためずらしい作品でもあった。また豊富な主題についても、他作品を寄せつけない出色の物語であり、若かりし私の物の見方を大きく変えてくれた作品でもある。個人的には琴美のルートがとても好きで、学者である父親の、「科学の言葉で語りえないからといって奇蹟を笑ってはならない」という言葉をとても大切にしている。

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●付記

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掲載した10作については順位をつけるのが難しく、あえて順不同で紹介することにした。いまであればここに『水月』を加えると思うが、まだレビューをあげていないため、今回は泣くなくはずしてある。ちなみに、最後まで悩んだ結果はずさざるをえなかったのは、Purpleの『明日の君と逢うために』HARUKAZEの『ノラと皇女と野良猫ハート』。そのほかについては、特に悩むこともなくすんなりと決まったので、やはり印象深い作品はつねに頭のどこかにあるものらしい。

特にこの二年で集中的にノベルゲームをプレイし、自分のなかにある一定のものを築けたという気がするので、ここから先はのんびりと、できる限り丁寧に作品を読み続けたい気持ちがある。プレイできる本数も著しく減少すると思うし、レビューの更新が不定期になったりもするだろうが――だろう、じゃなくて確実にそうなるけれど――やめることはないので細々と書きつづけてゆきたい。新年度もいい作品に出逢えることを楽しみにしている。

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