ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

2018年下半期レビューまとめ

f:id:SengChang:20181223193410p:plain2018年下半期に本サイトで掲載したレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。掲載作品数が少ないのはご愛嬌。

 

●『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか

f:id:SengChang:20181223193414p:plain「温故知新」という言葉を、これほど技巧的に表現した物語がほかにあるだろうか。現代に生きる人間の文化が、異文化ではなく、太古の昔に滅びた自分たちの祖先の文化によってdeculture*(脱-文化)されるという、眼がくらむような美しい物語である。様々な先進的思考が埋めこまれた物語である一方、文化に対する鋭い眼差しが本作の魅力の淵源であり、現代の私たちが気づくべき問題点をあらためて提示してくれた。新しいものをつくりだすとは、古いものを同時代に再適応することであり、それこそがmedia(媒介者)としての文化人がなすべき仕事なのであろう。*デカルチャー」という言葉はマクロスシリーズの合言葉でもあり、これが最も物語で生きているのが本作である。

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 ●『NHKにようこそ!

f:id:SengChang:20181223193415p:plain自己に関する深刻な問題をコミカルに描いた本作は、私たちがふとした弾みで陥ってしまう依存関係について、あらためて考えなおす機会を与えてくれる。依存によって自己を保持しながらも、その依存対象が自己を脅かすものとなり、やがては自己崩壊に至る。そのプロセスが次第に習慣化し、自己崩壊をくり返す循環こそが自己存立の手段となる、そんな矛盾をはらんだ自己をめぐる問題を扱っている。岬の役割同一性の主題も、特に漫画版は切実で、とても心がゆさぶられる。アニメ版と漫画版、それぞれに独自の注目すべき点があるところも、この作品の奥深さのひとつと言えるのではないか。いまも決して色褪せない、愛すべき一作である。

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 ●『GUNSLINGER GIRL

f:id:SengChang:20181223193416p:plain今年一年を通して最も影響を受けた作品と言える。非連続の自己ないし不断の自己の獲得が大きな主題となる、人間の本質を追い求めた悲しい物語である。過去の自己と現在の自己の乖離、融和、軋轢に苦しみながらも、担当官への忠誠心と戦いへの意志だけを心の拠りどころとし、義体としての自分の生を正当化しようとするさまは、見ていてあまりにも苦しい。彼女たちの唯一の生存理由である“戦闘”を突詰めると、例外なく死をたぐり寄せることになるという、二律背反の生の宿命――絶対矛盾的自己同一――にも心がひき裂かれる思いだった。0年代の知性が生んだ世紀の傑作物語。

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●『TARI TARI

f:id:SengChang:20181223193417p:plain2013年の私が感銘を受けた名作のひとつ。5年越しでやっと記事を書くことができた。この作品を観ると見えてくるものは、自分のいま続けていることが「やめる」「やめない」の問とは別の次元に属しており、決して「やめることができない」ものだという真実である。まわりのあたたかなひとの支えのなかで、和奏がそのことに気づきはじめる物語はとても美しく、「時間をかけて大切なものを育みつづける尊さは、この物語が語る最も美しい真実のひとつであろう」。

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 ●『WHITE ALBUM2

f:id:SengChang:20181223193413p:plain4年ぶりに再プレイした稀代の傑作長篇。凡俗極まりない主題をここまで非凡に描いた作品はほかに類を見ないであろう。雪菜、かずさ、春希の矛盾した言葉の端々からは、ゆがんだ論理を築かざるをえなかった過去、彼らがひとりでは克服しえなかった過去が隠されており、三人はそれぞれ「三人」を通して社会にふれることで、新しい自己を“いま”のなかに位置づけてゆく。丸戸が描きつづけてきた「やさしい世界」の闇を丸戸自らがあばき、社会との共存の道を本当の意味で深く探ったビルドゥングスロマンだと言えよう。また、ソナタ形式を援用した反復する物語は、隅から隅まで計算された美しい構成によって支配されており、もはや文句のつけようがない。まさに10年代を代表する傑作ノベルゲームだと言える。

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●『WHITE ALBUM

f:id:SengChang:20181223193418p:plain アニメ版のレビュー。ここのところ見たアニメのなかでは飛抜けて芸術的な映像作品であった。なぜこの作品が評価されていないのかは私には理解できないけれど、原作のノベルゲームを素材に作品をさらに奥深くするため、ブラウニングの著名な詩篇「ポーフィリアの恋人」を主題に組込んだところはすばらしいアイディアではないか。本作で展開される“本物”についての問題が、「ポーフィリアの恋人」における主題と緊密に結びついて、次々と豊かな物語を語りだしてゆく。そのさまは高度に文学的だと感じるに十分なものであった。数年前には気づかなかった物語の綾を、このたび丁寧に見直すことで捉えられた経験は、私にとってはとてもうれしい偶然でもあった。

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●『腐り姫』(補遺/CG Commentary)

f:id:SengChang:20181223193409p:plain補遺、CG Commentary、補遺Ⅱと、新たに三本の記事を投稿した。日本の神の性質をよくあらわした、とうかんもりの神について、そして異類婚姻譚としての狐の嫁入りについて、さらには本作のFDである『腐り姫 帰省~jamais vu~』についてもとりあげ、樹里の人物造形を補強する役割についてふれておいた。CG Commentaryの方では、これまであまりふれなかった、『腐り姫』における民間伝承の機能を見直し、物語をより楽しむための切口を見つけることができた。またこうした主題に加え、最後にとりあげたimprisonmentの主題は、『腐り姫』をさらに深く読むうえでとても大切なものであった。まだまだふれるべき主題は多く残されているため、今後もおりにふれてとりあげたい物語のひとつである。

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●付記

f:id:SengChang:20181223193411p:plain上・下半期のレビューまとめは、おそらくこれが最後になるのではないか。現在、ノベルゲームに時間を割かず、文学ばかりにかかずらっている事情もあり、プレイ中の『殻ノ少女』も頓挫し、しばらくノベルゲームの記事は書けないと思われる。別にノベルゲームをやめるとかそういうのではないが、そろそろ本職に戻り、文学作品を浴びるように読みたいので、比重を変えただけにすぎない。ノベルゲームの動向にはひき続き注目していきたい。

また、そろそろ練習の意味も込めて、諸々の記事の英訳版を投稿したいと考えている。来年はそういった投稿の場として本サイトを活用し、文学に関するノートを少しばかり残しながら――あまり出すと論文に使えなくなるので――ゆるりと続けていければと思う。

f:id:SengChang:20181223193412p:plain今年も、様々な場面で、多くのひとと作品について語る機会を得ることができた。私は顔の見えないネットで議論するつもりはまったくないので、やはり一対一で、顔を見ながら、物語についてあれやこれやと話せるのは、個人的にはとてもうれしい経験であった。今後もそういう機会が増えることを切に願っている。

あらためまして、今年も一年ありがとうございました。そして来年度こそは本当に忙しくなるのではないか(?)。それでもなお、かしましい周囲の騒音が一気に消え失せるような、魂をふるわせる作品に来年も出逢えることを大いに期待したい。

⇒2018年上半期レビューまとめ - ワザリング・ハイツ -annex-

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