ワザリング・ハイツ -annex-

どんなに忙しい毎日でも、紅茶を飲んで、ほっとひと息。

感想・考察(レビュー)

私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第三夜

(前回のあらすじ)ノベルゲームの物語形式として代表的なものを思いつくままに挙げていった。ノベルゲームのゲーム性と合致した推理小説の形式、ゼロ年代のはじめに隆盛を極めたループもの、ザッピングシステムや全知の語り手を導入した状況小説、あるいは…

私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第二夜

(前回のあらすじ)一枚の絵を見ながら耳で聞いた語りを理解するのが紙芝居の特徴だが、耳で聞いた語りをテクストとして絵に埋込み、さらに音響を添え、新しくつくられた“物語り”の形がノベルゲームであった。絵とテクスト(ないし音響)という物語るための…

私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第一夜

Visual Novel、Sound Novel、あるいはVisual Sound Novel、さらにはNovel GameやVisual Novel Game、Interactive Novelなどとも呼ばれる。各呼称から窺い知れるのは、この分野が形づくられてきた背景と作品のシステムであろう。視覚に重きが置かれるのか、音…

私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 前夜

なぜノベルゲームだったのか。なにを求めてノベルゲームをはじめたのか。今でもそれはよく考える。ノベルゲームの存在を知って10年ほど、本格的に手をつけてから6年ほどという、私自身のノベルゲーム歴は非常に短い。しかし文学研究に従事してきた経験からす…

『腐り姫』の基層

『腐り姫』についてぼんやりと考え気まぐれに調べることは今も変わらず行っている。『腐り姫』の中心的トポスである神岡町から学ぶことはいろいろあり、地理的な特徴に限らず、歴史や産業についても新たな発見が多々あった。たとえば、私の精神的故郷熊野に…

ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』

『わたしのいるところ』は日本語で読み、その後In Other Wordsを英語で読んだ。とても平易な英語で書く作家だとわかり、『わたしのいるところ』のような作品であれば、その効果はこんなふうにうまくあらわれるのか、と興味深く感じた。静かな孤独を描きだし…

オギュスタン・ベルク『風土の日本』を読む

ベルクは本書の冒頭で「風土」がフランス語で“milieu”とあらわされることにふれているが、本書の主題はまさにこの一語に集約されると言ってよいのではないか。風土・環境がひとをつくり、またひとが風土・環境をつくる一体不二の関係、そして“milieu”とは「…

市川浩『身の構造』を読む

高校の現代文の授業で読んだ本である。もっとも、この本の価値がわかったのは三十代になってからだったような気がする。あらためてふり返ってみると、高校の現代文の教材は大人になってからの自分にとても大きな影響を与えており、先生方の時代を読む眼に今…

『ヨスガノソラ』を読む

夢野久作「瓶詰地獄」とともに語られたレビューがあり、彼らのゆく末が実際にはどうなったのかがわからない、という問題が語られていた。信頼できない語り手(reliable narrator)や書簡体小説(epistolary novel)の技法をとり入れながら、複数視点の特質を…

吉本ばなな『キッチン』を読む

大学生の時なのでもう13年も前のことである。いまでもよく覚えているのは、大学近くの、いまはもうなくなってしまったカフェでひとり「キッチン2 満月」の一節を紙に書き写したことである。それを財布のなかに大事にしまって、数年のあいだもち歩いていた。…

『ふたりのベロニカ』を読む

ふと思い立って昔好きだった映画を観直している。ポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキは自分にとってとても重要な人物で、私のなかの東ヨーロッパはこのひとの映画によって形作られたと言ってよい。ポーランドとパリを舞台にしたキェシロフス…

2018年下半期レビューまとめ

2018年下半期に本サイトで掲載したレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。掲載作品数が少ないのはご愛嬌。 ●『超時…

『腐り姫』を読む 補遺Ⅱ(感想・レビュー)

ここのところ気になっているキーワードにimprisonment(幽閉)というものがある。この言葉を一度自分の主題としてとりあげたのは、確かエミリー・ブロンテの研究をしていた際、Richard Benvenutoの論文でimprisonmentという言葉を見つけたときであったか。エ…

メアリー・シェリー「マチルダ」を読む

私のなかでの英文学史上最高傑作『フランケンシュタイン』を生みだしたメアリー・シェリーが描く、こてこてのロマン派小説。父と娘の近親相姦“的な”感情と、自殺を主題として扱った短篇小説である。これが非常によかった。 自殺の主題については、以前にゲー…

『WHITE ALBUM』を読む(感想・レビュー)

映像の意匠、カットやシークエンスのつくり方が芸術的すぎて、まるでヨーロッパの映画を観ているような気分になった――アニメ版『WHITE ALBUM』を観るのは二度目だったが、こんなにすぐれた作品だったか、と困惑したほどである。視聴に伴い、リメイク版『WHIT…

『WHITE ALBUM2』を読む 後夜(感想・レビュー)

個人的に最も没入して読んだのは「closing chapter」である。やはり雪菜ルートはいい。「coda」のかずさルートもよかったけれど、あまりにも苦しすぎて、二度と読みたいとは思わない(四年前にも同じことを思った)。長篇作品で三部構成ともなると、読者それ…

『WHITE ALBUM2』を読む 前夜(感想・レビュー)

いつかもう一度自分のもとに呼び戻したいと強く願っていた物語。あまりにも複雑にからむ主題をどこからときほぐしたものかわからなかったこともあるが、現実もろとも串刺しにしてくる箇所があまりに多すぎて、とても素直に読めないと長く放置していた作品で…

『腐り姫』:CG Commentary

『腐り姫』レビューの番外篇。現在、本篇三周目の読みなおしに入っており、『腐り姫』は自分にとっての特別な作品となりつつある。今回はCG Commentaryとして、印象に残った主題に関するCGをとりあげた。ちなみに本記事の後半には本篇のFD『腐り姫 帰省~jam…

『TARI TARI』を読む(感想・レビュー)

本当に細かいところまでつくり込んであることにため息がもれる。私的アニメランキングをつくったとしたら確実に五本の指に入る名作。人生で大切なことは全部ここに描かれている。なにかをつくりあげること、なにかと真剣に向きあうことを、 “生きること”とい…

『腐り姫』を読む 補遺(感想・レビュー)

『腐り姫』二周目プレイの記念として、なにか残しておけないかと書いてみた記事。これだけの名作にたった二本のレビューはあまりにもさびしいと思い、ここ数年で気になっている日本の神と“矛盾的同一”をテーマにとり、今一度『腐り姫』をあらためた。しかし…

『GUNSLINGER GIRL』を読む(感想・レビュー)

すばらしい物語というのは世の中にいくらでもあるけれど、自分にとって特別な物語というのは実はとても少ない。ここ数年で読んだ物語のうち、本作は最も衝撃が大きかった物語だと言える。とてもよい読書体験であった。これから先、おりにふれて再読をくり返…

『NHKにようこそ!』を読む(感想・レビュー)

私はこの作品にアニメで親しんできたのだが、五年くらい前にようやく漫画版を手に入れ、先日はじめて読んでみたらやはり名作だったという話。いろいろな肩書きを方便として使いながら、元気にひきこもっていた時期も長い私にとって、この物語のリアルは見て…

『娚の一生』を読む(感想・レビュー)

すぐそばで起こっていそうなリアル。それが現代の物語の時流であることは知っている。本作を読んだとき、この女主人公はきっと現実の女の面倒を物語にもちこんだ結果生まれたキャラクターだと考え、憤りを覚えた私はたぶんまだまだ思考が幼い。物語は現実を…

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を読む(感想・レビュー)

マクロスシリーズがおもしろいのは、戦わないために戦う物語だからではないか。戦わないために歌という“文化”が用いられ、常識の異なる種族どうしが意思伝達をするための手段として生きてくる。私はロボットものになんの興味もないため、『マクロスF』と初代…

2018年上半期レビューまとめ

2018年上半期に本サイトで掲載したノベルゲームのレビューをまとめてふり返る記事。各作品の所感を短くまとめて紹介します。各節の終わりに記事へのリンクを貼ってあるので、詳しい作品レビューはそちらで閲覧することができます。それではいってみましょう…

『ONE』を読む(感想・レビュー)

その後のノベルゲームの範型をつくりだしたとも言われる『ONE』は、物語の展開も含めてきわめてパターン化されており、「物語」というよりも「ゲーム」という印象を強く受ける作品であった。おそらくこれがもともとのノベルゲームの形なのだろう。プレイなか…

sakuraCafe『storia』を読む

2018年4月の末、春のM3でリリースされたsakuraCafeの2ndアルバム『storia』は、タイトルにあらわれている通り、とても文学的な色合いの強い作品である。アルバムを聴きながら、なぜこんなにも文学を感じるのだろうと考えていたら、ふと追いかけた詞の一節に…

『水葬銀貨のイストリア』: CG Commentary II

『イストリア』のCG Commentary第二弾。前記事の続き。『紙の上の魔法使い』も含め、ルクルのシナリオは次々と厚く塗り重ねてゆくような物語であるため、人物それぞれの経験に裏づけられた言葉の重みも魅力のひとつと言える。そういった言葉は、たとえ物語の…

『吉野葛・蘆刈』を読む

抱きあわせの小品として岩波文庫に収録された両作は、同じ「奥」の秘密に分入る昔語りの物語である。『神樹の館』や和辻哲郎の記事でとりあげたように、「奥」というのは日本文化において特異な意義をもち、つねに位相の高い場所として表現されてきた。奥の…

『水月』を読む 後夜(感想・レビュー)

『水月』がまさか依代の物語だとは知らなかったので、那波ルートを終えたときの充実感はひとしおであった。本作を名作たらしめているのは、作中に撒いた民俗の情報をかき集めるだけでなく、それらの根幹にあったひととひととの関わりの歴史に注視し、語り尽…