ワザリング・ハイツ -annex-

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私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第三夜

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(前回のあらすじ)ノベルゲームの物語形式として代表的なものを思いつくままに挙げていった。ノベルゲームのゲーム性と合致した推理小説の形式、ゼロ年代のはじめに隆盛を極めたループもの、ザッピングシステムや全知の語り手を導入した状況小説、あるいはマルチナラティヴ、回想文学など、ノベルゲームにはありとあらゆる語りの形式が用いられている。このような背景を踏まえて『紙の上の魔法使い』では、ほぼすべての小説形式がひとつの作品内に埋めこまれるという、ノベルゲーム史をたどるような形式が採用されていた。

●増殖するオリジナルのないコピー

f:id:SengChang:20200526093916p:plain前回に述べた通り、ある年にメルクマールとなる作品が出てくると、それがひとつのモデルとなって、同じ手法を使った作品、あるいはそれに似た物語が次々と姿をあらわす。これは文学も同じであるが、翻案という文化が古くからある以上、モデルをとった作品を単に二番煎じと決めて措いてしまうのはまったく見当ちがいである。大切なのは、モデルとした物語に多くを語らせながらも、オリジナルとはなにがちがうのか、あるいはオリジナルを感じさせない価値はどこにあるのかを、しっかり見つめて受けとることである。

しかしモデルをもった別の作品がいくつも発表され、やがてある程度の年月も経ると、次第になにがオリジナルだったのかがわからなくなってくる――オリジナルのないコピーをより精確に言いなおすならば、オリジナルのわからないコピーとでもなろうか。この時点ですでにオリジナルを考えることはあまり意味をなさなくなる。オリジナルを特定したところで当該作品の物語が変わるわけではない。それよりもむしろ眼の前の作品があらわす主題をそのまま素直に受けとる方がよほど価値がある。これは『AIR』『SNOW』論争や、同じ自己確立の主題をくり返し描くminori作品などを思い浮かべてもらえばよい。

『SNOW』はたしかに『AIR』と進行手続を重ねてはいるが、各ヒロインとの関係や物語の展開もちがえば、第三部の結末なども決定的に異なる。『AIR』は死をもって自己を確立させ、『SNOW』はだれかと生きつづける意志を全面にうちだす。これはたとえば『WHITE ALBUM2』の物語構造や人物造型が『WHITE ALBUM』に多くを負っているのとなんら変わりはない。むしろ人物の特徴といった記号的な部分を模倣しながらまったく別の物語を語るというのは、ノベルゲームという分野でなければなかなかできない芸当とも言える。殊に学識のない面々から、まがいものだと弾圧を受ける可能性の高い現在において、このようなおもしろい試みが安易に斥けられがちである。世間のひとは”本歌取り”という日本の伝統手法すら忘れてしまったのかもしれない。

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f:id:SengChang:20200526091721p:plainこの問題については『SNOW』の記事でも書いたのでここではあえてくり返さないが、いれものが同じでも中身が異なる、というのは物語文化においていつの時代も大きな意味をもつ。物語とは額縁ではなく、額縁に収められた絵の方である。枠組や装飾が同じでも、描いたものが異なればそれは別の作品と見るべきであろう。似ているという理由だけで切捨ててしまうのはあまりにも安易ではないか。その意味では、『紙の上の魔法使い』はありとあらゆる文学作品、ノベルゲーム作品の典型を模倣し、あれだけのものをつくりあげたという点で、大きな功績を残したと言ってよいだろう。『AIR』『SNOW』の類似をとりあげて笑った人間の多くは、おそらく『紙まほ』を読んでもあれが模倣の連鎖であることにすら気づかないであろう、というのは高飛車にすぎる批判であろうか。

ほかにも、断絶した自己の主題や代理体験自己の矛盾的同一など、自己同一性の主題を真摯に扱いつづけたminori作品などは、同じ型を使って実に様々な物語を語りつづけてくれた。ヴィジュアルや演出ばかりがとりあげられたメーカーにあって、『ef』はもちろんのこと、『12の月のイヴ』『ソレヨリノ詩』『罪ノ光ランデヴー』など、自己の主題がとても丁寧に扱われている。現在このような姿勢で作品をつくりつづけるメーカーはほぼないに等しい。あえてあげるとすればニトロプラスくらいのものかもしれない。

形式や語りの手法を手掛かりに、枠組から物語を読むのも大きな意味をもつが、やはりそういった構造ばかりをさらうのでなく、より深く物語の主題と向きあう必要があろう。オリジナルのないコピーは今後も増えてくると思うが、むしろそれぞれのよいところが受継がれ、さらなるすぐれた作品が多く出てくることに期待したい。

 

●付記

f:id:SengChang:20200526092013p:plainジェラルド・プリンスの『物語論辞典』をめくりながら、ナラトロジーを駆使してノベルゲームを読めばかなりおもしろく整理できるはずだと思いつつも、今はまだ勉強不足なのでやめておいた。ぜひ有志の試みを待ちたい。

実際に書いてみると、ノベルゲームの形式だけでこれだけの分量になってしまった。枠組ばかりを外から眺めていても仕方がないので、より具体的に作品をとりあげながらもう少しノベルゲームの深淵を覗いていきたいところである。自分の読んできた順に、自分の思考の流れをたどりながら、できるだけ詳しく整理したいと考えてはいるものの、次がいつになるかはわからない。気が向いたらそのうち書いてみようと思う。

⇒私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 前夜 - ワザリング・ハイツ -annex-

⇒私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第一夜 - ワザリング・ハイツ -annex-

⇒私のノベルゲーム入門Ⅰ「導入篇」 第二夜 - ワザリング・ハイツ -annex-

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